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世界を、愛す。





【世界を、愛す】





「珍しいこともあったモンだな、――何だ」

はっきりと鼓膜へ届く低い音色に誘われて、スクアーロは伏せていた瞼を持ち上げた。腕置きに背を預け片膝を立ててソファーを独占しているスクアーロの元へ歩を進めると、その脚の上にどかっと腰を落とす。寸前の所でそれを避けたスクアーロはクツクツと小さく笑みを溢した。

「なんだぁ、潰す気か?」
「質問に答えろ」

今の戯れのお陰でソファーの上で両膝を立てているスクアーロは、主の凛とした横顔から送られる流し目に頬を弛ませた。――今日も良い男。
それから彼の膝へ向かい合う形で落ち着き、会話の引き合いに出された“それ”を開いて見せる。数日前にルッスーリアに借りた恋愛小説である。

「おまえが居ない間の暇潰しを兼ねて借りた」
「くだらねぇことはするな」
「あいつが言うにはオレには足りねぇんだと、……雰囲気とか」

「……今更だろ、てめー今年で何年目だよ」
「ん゛ん……18?」

呆れた様に吐息混じりに投げ返しながらも、優しさを纏う手付きで腰を支える様に其処で手を組むこの仕草は一体、いつからされていただろう。
歳を取ったせいでもあるが、少しずつ普段の何気ない仕草にこうした慈しむ様な色が浮かんでいた。大切にされたい等この男に望んだ訳でも無いのに、こうされる度にまた一つ、気持ちは膨らんでいく。

「オレはてめーに期待なんざしてねぇ」
「う゛お゛ぉい……」
「何だ、オレに文句でもあんのか」

「ねぇけども」
「“けど”何だよ」

言葉に困り手にした本へ目を落とす。付箋の付いたページを開いてから再び、向かい合う男の瞳を覗いた。


「あいつはこの『世界中の誰よりも、貴女のことを愛しています』って台詞が好きらしい。――どう思う?」
「薄ら寒い」
「だよなぁ?でもまあ、女子供は好きそうな台詞だ」

「……てめえは何が言いたい」

他愛の無い会話でも発揮される男の直感に唇は意図せず綻び笑みを象る。用無しとばかりに閉じた本をソファーへと放って、無防備に曝された首元へ腕を絡ませる。腰に宛てられた手は動かない。――返事待ち、か。
望む反応を貰うべく、問われた事に素直に答えた。




「世界中の誰よりもなんざ言えるのは表に生きてる奴だけだ。オレにはそうは言えねぇ……でも、オレの“世界”はおまえだけだからオレは『オレの世界を愛してる』とは言えるってことだぁ」
「くだらねぇことは言うな」
「悪ぃ」

「許さねえ」
「いいぜぇ?一生許すな」

そう言っていつもの様に顔を寄せキスをねだる男の腰を強引に抱き寄せ距離を詰め、垂れてくる銀の糸を手繰り寄せて唇を重ねた。
こいつは気付いちゃいない。それなりに雰囲気を持っている事に。
(とは言っても、黙っている時限定で――なのだが。喋るとボロが出る)

いつもと変わらぬ口付けを堪能し唇を解放してやれば、間近に在る銀鼠の瞳は濡れて熱っぽい。それでいて魘されたかの様に、何処か無防備で。
すっかりとオレの望むモノを全身で覚え込んだそれを褒める様に、ゆっくりと頬を撫でてやると猫の様に眼を細めた。

「スクアーロ」
「ん゛ん?」
「しょうがねぇから、てめーをオレの世界に置いてやる。喜べカス」

「喜び過ぎて泣いたらどうする?」
「うぜぇ、……死ね」

言うが早いか、膝の上で身を預けていた男を放り出す。急に投げ出され、床に腰をぶつけた音と共に眉間に皺を刻む男を見下ろして脚を組むと、性懲りもなく男は立ち上がり再びと脚に跨がってきた。
こいつのしつこさはこんなモンじゃない。




「う゛お゛ぉい、まだ泣いてねーぞお!!」
「黙れ」
「ん、……」

「てめーが勝手に泣くのは許さねぇが、オレが啼かす分には問題ねえ」
「いやな男だな」
「こーいうのがイイんだろ?てめえは」

「おまえだからイイ、だ。間違えんじゃねーぞぉ」
「生意気言うな、このドカスが」








世界中の誰よりも。
そんな陳腐な台詞じゃ物足りなくて。

“あなただけ”でもまだ足りず。
ならば如何致しましょう。


唯一と決めたあなたを、




『世界』を、愛すると。


-END-





初のフリー小説なんで、ちょっと短めにしてみました。1000、2000、3000、4000hitを祝して。
スクはボスが居る時は読書とかしないので、珍しく映ったようです。
イチャイチャだけではなく、やっぱりこーいうやり取りもしながらじゃれてて欲しいという願望。

――2009.09.29.

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あきゅろす。
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