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Dream
第2話「私の紅桜」

目覚めは非常に気持ち良かった。

ふわふわとした感触に寝ぼけている麗華はそれを引っ張る。

顔に触れるまで引っ張ると、すっとそれが手から離れた。

目を閉じたまま麗華はそれをもう一度引っ張ろうと手を伸ばした。

「んぅ・・・?」

さっきのふわっとした感触じゃない・・・?

まぁ何でもいいや・・・と麗華はそれに抱きついた。

―――けど何かおかしいような・・・。

覚醒しきっていない意識が一つの真実に辿り着き、ようやく覚醒する。

「ここどこ・・・?」

確かあの青年に背負われて・・・それで?

目を開ければ、目の前にあの青年の着流しがあった。

麗華は何度も瞬きし、冷や汗を流した。

おそるおそる着流しを上に見て行くと、案の定青年の顔があった。

しかも起きてこっちを見ていたという特典付き。

「起きやしたねィ。」

私は急いで腹に回していた腕を離して立ち上がる。

綺麗な和室のようだった。

「ここはどこなの?」

冷静を取り戻し問いかけてきた麗華をつまらなそうに青年は言う。

「俺の部屋に決まってんだろィ。」

聞いたやいなや、返答もせずに部屋の様子を見ている麗華の腕を青年が引っ張った。

「ひゃぁっ?!」

腕に納められ、心臓が大きく鼓動する。

「は、離してよ・・・!!///」

腕を押しても微動だにせず逆に力を強められてしまい、耳まで真っ赤に染まる。

麗華の耐えきれない表情を見て青年が満足げに笑い、麗華の真っ赤な耳でそっと囁いた。

「今はそんな事・・・どうでもいいだろィ?」

「―――っ////」

現状に我慢できなくなった麗華は動く拳で青年の腹を殴った。

「いってェ・・・何すんでィ!」

睨まれて麗華はビクッとしたが、すかさず青年と距離を取る。

そして勢いよく青年を指指した。

「私に触るな!・・・この変態!」

まだ顔は真っ赤だったが、麗華はそれだけ言い残して急いで部屋を出た。

足音が小さくなっていくのを聞きながら、青年は去っていた場所を見つめる。

「こりゃ一筋縄じゃいかねェみたいでさァ・・・。」

見た目に似合わず、中身はただのガキ。

なのに孤独な生活が強がりな性格を作りあげたって所かねェ・・・。

顔を真っ赤にしていたし、押しには弱そうに見える。

急いで出て行ったからきっと真選組から逃げる気だろうな。

「あーあ。」

誰もいない部屋で青年は聞こえていない麗華へと向けて言った。
        
「いいのかねェ・・・『唯一の安全地帯』から出ていっちまって。」

なんせ真選組には『女がいない』のだから・・・。

青年は意味ありげな笑みを浮かべ、部屋を出た。















「追ってこない・・・?」

懸命に廊下を走る麗華の息づかいは荒い。

時折後ろを見て見ても、あの青年が追って来る気配はなかった。

いつもは店主などに追われているのに、いない方が逆に不気味に感じた。

とりあえずこの直線の廊下から逃げよう。

一目で居場所がわかってしまう。

ここが噂に聞いた真選組ならば、あの人は真選組の人だったんだ。

そんな事を考えつつ、麗華は廊下を右に曲がった。

「きゃっ!?」

「うおっ!?」

急に視界が真っ黒になり、私は男の人にぶつかってしまい、2人とも床に倒れてしまった。

これはやばい・・・と麗華はすぐ様立ち上がる。

「てめェ・・・!!」

「やっ・・・。」

逃げる私の腕をすかさず捕まえ、黒髪の人が不機嫌そうに言ってきた。

「廊下を走るなんて子供かてめー・・・・・・は。」

目の前にいたのは制服を着た隊員ではなく小汚い着物を着た女だった。

整った出で立ちで自分を睨みつけてくる様に少し驚いた。

迫力じゃなく動揺の意味で。

「その手を離して!!」

無理矢理手を振りほどこうとするが、グイッと腕を引かれて、黒髪の人と対面する形となる。

よく見ればこの人・・・・・・目が、いや瞳孔が開いていてとても怖い・・・。

「てめェ。何でここにいる。」

麗華はうつむき、答えようとはしない。

口実を作ろうとしても、こんな格好じゃ嘘って事すぐバレてしまう。

重苦しい雰囲気の中、麗華の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

「あ。ここにいたんですねィ?こっちに来なせェ。」

「えっ?」

黒髪の人も麗華も訳が分からず呆然としていると、青年が私に歩み寄り、男の人の手を振り払って私の腕を優しく引っ張った。

「・・・・・・おい!総・・・ごぉ!!?」

どこから出したのかわからないが、青年が両手でバズーカを抱えており、大きな発射音と共に弾が発射された。

青年に連れられその場から去ろうとする時、黒髪の人の断末魔のような叫び声が聞こえた気がした・・・。

「何でだァァアアアア!!」














青年の部屋に戻った麗華と青年はその場に座る。

すると麗華が沈黙を破った。

「何で私を助けた・・・?」

元は私を捕えてここに連れてきたと言うのに拷問もされず、真選組の人にも私の事を話していないようだった。

しかも、それがバレそうな時に青年は私を助けてくれた。

正直なところ嬉しかったけど、信じていいのかわからない。

・・・本当に行動が読めない人。

青年が答えようと口を開いたが、一旦間を置いて、また口を開く。

「・・・脱いでくれやせん?」

「・・・・・・・・・は?」

文字通り麗華は硬直する。

気がつくと着物を肩のところまで脱がされており、私は必死に青年の手を止めた。

「触るなって言ったでしょ!」

「いいから。お前にはこっちのが似合いまさァ。

こっち・・・?

麗華が着物を着直して、前を見ると青年が取りだしたのは綺麗な紅桜の色をした桜模様の着物だった。

麗華は思わず目を輝かせ、釘いるように着物を見つめる。

「・・・・・・!!」

「あんたの服ですぜ。」

それを聞いた麗華は嬉しそうに顔をほころばせた。

「うそ・・・。本当に・・・いいの?」

一目見ただけで高そうな着物なのはわかった。

子猫のような目で青年を見つめると、青年は小さく頷いた。

麗華は着物を受け取り、今着ている着物を脱ごうとするが、手が動かせないでいた。

青年は部屋を出る所か、こっちを見ているのだ。

私が必死に目で訴えるのに、青年が渋々立ち上がる。

そして障子に手を当てこちらを向いた。

「逃げないでくだせェ。外で待ってやすから。」

「う、うん。」

障子が閉められ、私は着物を見つめる。

―――逃げないでくだせェ

逃げる・・・・・・。

ついさっきまでここから逃げるつもりだったはずが、いつの間にか青年と一緒にいるのが安心するように感じてきた。

けど、そんな事考えちゃダメ。

着物を渡してくれたのは、きっと今の姿が見苦しかったからであってのこと。

くれた理由を他に考えてもそれしか浮かばない。

あの人は警察の人で私は罪人・・・。

その事実に変わりはない。

いつの間にか手に力を入れていて、私は悲しげに笑った。

「とりあえず着替えないとね・・・。」

嫌いな桜色も今なら好きになれる気がした。

まるで私に合わせた綺麗な紅桜。

麗華は急いで着替え始めた。

















それからしばらくして、外でボーッと突っ立っている青年の頭に今朝の出来事が思い浮かぶ。

「気に入ってくれやしたかねィ・・・。」

あいつの為に呉服屋を叩き起こして選んで買ってきた着物。

どうやら俺ァあいつが放っとけねェみてェだ。

障子が開き、顔だけぴょこっと現れて恥ずかしそうに俺を探す様に、俺は笑みを浮かべ歩いていった。











2010.5.14

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