ブリキ少年と死神と魔女の少女
第1話:【その方向では】破壊しないと通れません:5−1
振り返った途端、真っ先に視界に入ったのはもう何年も俺が追っている奴らと同じ正装────言ってしまえばただの黒マントだ。
髪や肌なんて見えないくらいにフードを深く被って、パンドラのシンボルが入った、口角が上がっている仮面を付けている。
片手には自身を示す大鎌を持っていて、その姿は夜の深さと月光に照らされ、やけに不気味だった。
「こんばんは、この間ぶりですね」
「あ?俺、アンタに会ったことあったっけ…」
死神と思わしき人物の言葉に、思わず首を傾げ、顎に手を当てる。
パンドラの輩は誰であろうと同じ服装をしているから厄介だ。
黒マントのおかげで区別がつかない。
そうでなくとも、奴らの服装はいつも黒尽くしなのだ。
まだ目の前にいる人物が仮面ではなく、眼帯をしているだけなのなら人相は分かったけれど、一回会った程度の輩なんて覚えているわけでも無い。
強烈な、何かが無い限り。
「随分酷いお方ですね。ご自身が投げつけた爆弾で、私の顔を焼いてしまわれたのに」
俺の困惑(に似た手つき)を見た奴は、心底傷つきました、みたいな仕草をしながら言葉を放つ。
くすり、仮面越しからでも分かる相手の笑い声。
面白いのか、それとも俺を嘲笑っての行動なのか、くすくすと笑う声が響く。
俺が投げた爆弾…焼いたってことは、もしかして顔面に向って投げつけたってことか?
朝のような暴挙に出た覚えのない俺は、そのワードを元にじっくりと考える。
もしかして、この間の朝が殺されそうになったやつか…?
「その様子だとどうやら私を思い出していただけたようですね」
「…あー、この前のアンタか。あのときは悪い」
人差し指で頭を掻いて、思ってもいない台詞を投げる。
顔面を焼いてしまったことは、罪悪感が分からない俺でも不味いことをしたな、と思うさ。
でもどうせ、死神(オマエ)はこの程度では腕の一本も削ぎ落とせないだろう?
ならそれくらい良いんじゃないのか、と言いたくなるが此処は控えるべきだな。
そんなことを言ったとしても、俺や朝は生きている限り“パンドラ”という組織に命を狙われることに変わりはないのだから。
別段、個人に対しての怨みはない。
死神への感情が特別強いだけであって、種族自体ではなくパンドラ自体に怨みがある。
そうは言っても死神の大半がパンドラに所属しているため、自ずと標的は死神になってしまう。
要約すると、何の罪もない死神だとしても、どうやっても俺にとっての怨みの対象になる、ということだ。
悪いが、心臓を食わせてもらう。
俺にはそれだけが必要なんだ。
「仮面、取らねーの?ぱかーって」
「先ほど申したように、顔に酷い火傷を負っているのです」
え、ちょっと待て、これ俺のせい?
死神ってケタ違いの戦闘能力のおかげで、自己治癒能力も高かったんじゃなかったっけ。
身体の造りがオカシイのは【死神】、異常に生命系の術に特化しているのは【天使】、これがこの世界の種族の基礎知識だ。
全体的に分からないところが多いのは【幽霊】と【悪魔】の二つと決まっている。
何が言いたいかっていうと、目の前にいる【死神】があの程度の爆撃で火傷を負うワケがない、ということだ。
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