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ブリキ少年と死神と魔女の少女
:2−2


「当たり前だろ。何年追っていると思ってんだ」


奴からメロンパンを奪い、少しだけ口に入れる。
この会社の製品、甘いものばっかだな。
クッキー生地の食感は、とりあえずサクサクしているが、若干砂糖が多い気がする。
甘すぎる。
だが、糖分を欲していた脳にはちょうどいい。



「9年だろ?はいはい。どーせ俺は敵側(パンドラ)ですよーだ」

「はあ?何言ってんだよ。今は味方、だろう?」



ピタリと動きを止めた奴の方を向いて、その顔をじっと見つめる。
同い年らしいコイツと俺は、初対面のとき、こんな関係になるだなんて思ってもみなかった。
だって考えてもみてくれ。
コイツ──────智艸朝(チグサ アサ)の身分は、元パンドラ暗殺部隊総括隊長だ。
しかも死神で、階級もかなり高そう。
死神と言えば俺が嫌う筈であり、食う対象なのだが、コイツだけは食う気になれなかった。
逆に食ったら俺が腹を壊しそうで嫌だ。


朝と形成逆転した際に心臓を抜き取ろうとしたが、逆にコイツは自殺しようとしていた。
「食われるのは御免だ」と。
何を思ったか知らないが、俺の「この際だしパンドラ抜けて擬似人間体験したらどうだ?」の言葉で、徐に自らの鎌の刃で、首筋にあるパンドラのシンボルを潰しだした。
ブスッと。
その瞬間血が大量に吹き出て、死に掛けていたので、じーさんとこに連れて帰って手当したら、こんなことになった。
あのままパンドラに属していようが俺と居ようが、どちらにせよ、コイツに擬似人間体験はさせてやれていないけれど。



「ほんとオマエには叶わないなー…」

「意味わかんね。あ、パン返すわ。甘い」

「この砂糖の塊が魅力なんだよ。分かってないな。あ、あとニュース見て、ちょっと気づいたことがあるんだよなぁ」


返したメロンパンを口に入れながら、呟いた。
気づいたこと、ねぇ…。
俺らは平和を知らない。
外に出るだけでそこは戦場だからだ。
朝なんか特にそうだろう。
元パンドラってだけで、現パンドラにも狙われるハメになる。
それに、死神殺しである俺の手伝いをしようとしているのだから。
こんな生活に平和なんて言葉、あるわけがない。
なれた日常に、本日何回目か分からない溜息を吐いた。



「気づいたことって?」

「あのニュースさ、行方不明者が【人間】だって言ってたけど、どう考えてもオカシイだろ?パンドラは人間なんて襲わない」

「ああ、俺もそれを考えてた。行方不明になったのは【人間】じゃなくて、別の種族。───例えば、【悪魔】や【天使】の様な力を持ったモノじゃないのかって、な」


パンドラの目的は分からない。
俺も、元パンドラであった朝にも。
パンドラが成そうとしていることは組織全体に公表されているものではなかったようだ。
なのに多くの死神や他の種族が居るとか、あの組織は凄いな。
俺ならそんな目的も解らない怪しい団体に入ろうなんて思わない。
よく分からないが、パンドラの頭の回路、可笑しいんじゃねぇの。



「ご名答。実は昔、会議室の近くで聞いたことがあるんだ。パンドラの目的っぽいの。今なら何となく意味が解る」

「…?」

「姫を探してるらしい」

「ヒメぇ?」


な、なんて悪趣味なモンを探してるんだパンドラは!
姫とか、姫とか現代で人間の貴族以外あり得ないだろ。
他の種族だって居るのは王くらいだ。
というか王だっているのか分からないくらいだし。
朝に視線を合わせると、こくり、と頷かれてしまった。ほ、本当なのか…。



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