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ブリキ少年と死神と魔女の少女
第0話:無くしたモノ

たったひとつ俺に残っていたものは、全てを失った、幼いあの日の夜の出来事だった。








────そのとき俺は、何故か見知った森の奥で立ち尽くしていた。
辺りは朝のように、だけどもあり得ないくらいの光華を放って暗いはずの森を照らす。
少し先に歩くと崖があって、そこから見える街は、真っ赤に燃え上がっていた。
次第に森の木々も、見下げるだけの街も赤く、紅く全てを黒に変えていく。


すぐに分かった。
何者かの手によって街全体に火が落とされたのだ。
民衆の誰かの過失とかじゃなくて、明らかに、人為と言える速さで瞬間的に蒼い炎が回り、息をつく間もなく、橙とも紅ともとれる怪物達が街を覆った。


現実から逃げないように深呼吸をすると、至る所から焦げた臭いや生き物の体液など、遠くからでも異臭が分かるほど充満している。
ああ、まるで、父が言っていた“ジゴク”みたいだ。


住んでいた家は、とっくの前にぐちゃぐちゃに壊された。
隣家もすでに内側から侵食された様に、腐って使い物にならなくなっていた。
全て、そう、今しがた自分の目の前にいる男によって消されたのだ。


それは突如上がった炎のせいだけではなくて、男が持っている鈍色に怪しく光る、大きな鎌が振りかざされたから。
個体として生きていたそれに、何の躊躇いもなく鋭い刃を向け、ブツリと嫌な音を立てて肉が落ちる。
見慣れた誰かも××も、未だかつて見たことのなかった、肉片に成り代わってしまった。眼球に焼きつくほどの悲惨な光景。
油断すると、吐いてしまいそうになる。
だけどそんな身体に鞭を打って、つい、と男へと視線を向けた。



男の風貌は一言で言えば黒だった。
漆黒のマントを羽織り、髪も肌も見えないようフードを深く被って、仮面を着けていた。
幼い自分と視線が合うと、男は今までしていた仮面を外す。
露わになった片目に付けてある黒色の眼帯には、細かすぎてよく見えない文字に、蔦が巻き付いてある白い箱が描かれていた。
何の絵なのか考える間もなく、閉じていた男の瞼がゆっくりと動く。
そして一気に、眼帯を外して、



その、赤い瞳(め)を、銀色にヒカラセテ、



「…、死神ぃいいいいいいいいいいっ!!!!!!」



術を使うときだけ細められる瞳孔。
××××さんと同じそれを、見たことがあったから。
何で、何で何で何で何で何で何で何で何で!!!!!!
何で俺の家族を!!!!!



溢れ出る憎悪に、瞬間、男に向けてがむしゃらに走り出そうとしていた。
すると途端に男が鎌を取り、何かを呟いて光出す世界。
眩しさから目をぎゅっと閉じ、しばらく経ってからゆっくり瞼を上げる。
開けても変わらなく燃え続ける木々、何故か動かなくなった俺の両脚。
悔しさと憎らしさからボロボロと涙を流し、情けなく叫ぶ。



「返せ、返せよ!!!」



力すら入らない脚は、みっともなく地面へと崩れ落ちる。
俺の横を通り過ぎようとした男の腕を掴んで、ただただ声を張り上げた。



「返せよ、何でだよ!!!!何でおれの家族をっ。」

「邪魔だ。ガキに興味はない。」



腕を掴んでいた手を思いっきり弾かれる。
俺に見向きもしないまま、男は業火の中を進んで行く。
取り残された俺の周りにどんどん炎が近づいていて、生死なんて考えることもせずに、ひたすら叫んだ。



「返せよおれの家族ぅううううううううう!」



泣き崩れる俺。そこで視界が暗転する。




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あきゅろす。
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