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ブリキ少年と死神と魔女の少女
:5−3


聞くだけならコントみたいな会話の内に対策が取れるように、十分に間合いを取る。
俺は前屈みになる体制になり、奴は鎌を持ち替え、前方を睨んだ。



「死神ってさぁ、ナルシストが多いのか?」

「はぁ?巫山戯るのも大概にしておいてくださりませんか。そんな軟弱な輩と一緒にされたくないですね」



ナルシスト、という言葉を一刀両断される。
あ、やべぇ間違えて煽った。
興味本位からやらかしてしまった。
こういうとき、感情というものが邪魔だと思ってしまう。



「いいですか?死神は【力】の象徴。その力を存分に使わなくて、何がパンドラですか。殺れる相手はすぐに殺る、これこそパンドラ!」



パンドラというモノ自体に歓喜し、叫ぶ男。
その瞬間、俺は分かってしまった。
パンドラはロクでもない馬鹿な奴ばっかりだな、と。
力を驕って、知ろうともせず使い尽くそうとする。
限りがあることも知らず、ただ無差別にやりたいことだけを行う。
愚かだ。
殺戮は何も生まない。
殺された相手とその周りの負の感情と、ソイツの快楽と痛み以外は。
俺だって、それくらい分かっている。
だから負の感情しか手に入れることが出来ていないのだ。
嗚呼、何なんだ。
この世界は本当に、


終わっている。



「ハッ!これだからヤダよ、パンドラってヤツはさぁ。殺人に快楽を覚えて、その快楽に溺れていく変態ばっかじゃねーか」

「失礼ですね。これだから一般人は嫌いです。まぁ、そうこうしている内に…」



俺の悪態を失礼の一言で片付けた。
そんなにパンドラを盲信するのか、そうか。
怖いな、信者って。
ふ、と脳裏に過った蔑むような思考を、強制的に遮断するかのように奴は言った。



「サヨウナラ」



瞬時に消えた奴の嬉しそうな声が後ろから聞こえる。
後ろを小さく覗き込むと、奴は口角をあげてにやにやと不気味に笑っていた。
ヒヤリとした風が首元を覆ったので、不思議に思い視線を下げると、鋭い鈍色の刃が喉元へ突き付けられていた。
あー、何で俺、焦っているはずなのに冷静なんだ。
これも感情が無いせいだろうか。

でも本当に危ない。
相手の動きを見ずに隙を作ってしまった。
喉の皮膚に刃が触れる。
冷たい感覚に、思わず息を飲んでいた。



「──────っ」



何だこれ、昔テレビで見た死亡フラグ回収ってことか?
オイオイ本当かよ。
こんなところで死ぬのか?
まだシェイクされたドリアを食べてないし、朝に仕返し出来ていない。
それどころか、心を取り戻してすらないんだよ。
喉に刃が食い込む。
何故だかそれがスローモーションのように感じた。



「まだ、」



死ねない。


耳に肉と骨が千切れた音と、俺の呟きが聞こえる。
鮮血が飛び散って、俺の視界は赤に染まった。


あれ、俺死んだ?



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