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ブリキ少年と死神と魔女の少女
:4−2

ざり、ざり、歩くたびに聞こえる砂の音。
しーん、と静まった場所のせいか、スニーカーの音がよく聞こえる。
ざり、ざり、ざり、外で俺一人が歩いているのだろうな、と納得させるような音。
この音に自身を落ち着かせて、今日一日を振り返ってみることにした。







本日の朝も、思考回路がぶっ飛んでいた。

教室に入った途端俺の背後に来て、その位置から首に腕を巻きつけてのし掛かる。
男子高生だからそれなりに重い。


『溢希くんおはよう』

『おはよう、と言いたいところだけど、何改まってんだよ。気持ち悪りぃ』

『溢希くん辛辣ぅそんなところも痺れちゃうっ』

『気持ち悪い』


朝の冗談を一蹴して頭を叩き、本題は何だと妙に整った顔を見つめる。
肩が凝ってしまったら嫌なので、首に絡んでいた腕ごと奴を落とした。
「痛いなー」の言葉と共に奴の顔は口角が緩んでにやけ出し、気持ちの悪い状態になっていく。
コイツは何処まで気色悪くなれば終わりがくるのだろうか。
というか今の数秒で何を考えたのだろうか。
また面倒臭いことかもしれない。
そして前々から思っていたけれど、コイツ、ドMかもしれない。



『俺らの目的ってさ、パンドラ壊滅じゃん?』

『それはオマエの目的であって、俺はあのときの死神を探しているだけで』

『同じ同じ』



纏めやがった。

確かに俺とコイツの目的は似ている。
最初こそあのときの死神を殺すためだけに生きていたが、今は違う。
これ以上俺みたいな廃人を生まないため、みたい節があるから。
だけど大事な人を失いたくないって気持ちも存在していることは確かだ。
じーさん達を失ったら今度は俺、どうなるんだろう。
壊れるのかもしれない。
心がないということは、壊れたも同然だけれど、そうではない。
俺の“心がない”というのは、死神の力の一つである何かに奪われたのだから。

死神は様々な力を持っている。
その中でも俺が受けた術を扱える奴はごく少数らしい。
鎌を振って、肉を切り裂かない代わりに精神と脳を掠め取る。
取った物を己の力に変えることが出来ると聞いた。
特に何もかも純粋な子供の心は膨大な力を出すらしい。
だがその力のせいで取られた側のリスクは大きい。
記憶や感情といった自我が無くなってしまうため、世界に目を向ける前に自殺する。
俺もその状態に近かったはずなのに、異例中の異例で生き残った。


死神を食いながら、生き残った。


『昨日言ったお姫様のことだけどさ、あれだけ行方不明者出すくらい血眼になってるってことは、相当焦ってるんだろうなって思って』

『あー、まあそうかもな』

『つーことは、だ。パンドラは“姫”が誰なのか分かっていない』


爽やかに笑った朝に嫌な予感が過る。
まさかコイツ、昨日みたいにとんでもないこと言い出すんじゃないだろうな。
無謀すぎるような、体裁を気にしないそれを。
腕をぶった切られるようなことを、またするのではないかと冷や冷やする。
本格的に冷や汗流れて来た。
予感が的中しそうだ。



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