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ブリキ少年と死神と魔女の少女
第1話:【その方向では】目の前の障害物にぶつかります:4−1


「有難う御座いましたー!」


コンビニの店員の元気な挨拶を背に、軽快な機会音と共に扉を開ける。
深夜だというのに、よく元気でいられるな、なんて考える。
ん…?
元気でいられる、じゃちょっと可笑しいな。
明るい挨拶をする、それが彼らの仕事なんだ。
元気どうこうの問題じゃないな。
当たり前な答えに誰に合わせるでもなく頷いて、カサリと揺れる白いビニール袋を左手に握り変えた。


今日はじーさん達が居ない。
なんでも近所付き合いで旅行に行くそうだ。
だから必然的に晩飯の用意とか、自分でしなくちゃいけなくなる。
人並みに家事をするし、出来るという自覚はある。
だが如何せんこの時間だ。
面倒臭いったらありゃしない。
近くに24時間営業のスーパーだってないし、こんな夜遅くに飯を作って食う気にもなれない。
飯を食わなきゃじーさんに怒鳴られるのを知っているので、何でもいいから飯になる固形物を入れよう、そう思って比較的近くにあったコンビニに足を進めた。
スープは昨日の残りがあるはずだし、無難にドリアとサラダにしておいた。
ドリアといえば、登校したときに朝が食いたいと言っていたモノ達だ。
アイツ晩飯何にしたんだろう。


握ったビニール袋が揺れる。
袋の中の内容物は男子高生にしては少ない量だと思う。
現在深夜2時近く、この時間にガッツリ食うとなったら、早朝に向けての消化が大変になるので仕方が無い。
心臓を食っているからといって、その量を消化出来るほどの頑丈な胃を持っているわけではないし、食に関しての執着もない(その前に執着がどんなものかも分からない)。
通常の量も他の奴に比べたら少ないのだろう。
心臓を食ったときなんか、もうそれだけで一日の飯は要らないくらい腹が膨れる。
あれだけで最低3日は持つと断言してもいい。
栄養化が高いと言えばいいのか、質量があると言えばいいのか。
中々上手く伝えられないが、死神の“心臓”という物は半端ないくらいカロリーが高いのだろう。
よく分からないからそういう説明にしておく。

補足だが、いつも生で食っている俺が言うのも何だけど美味しいわけではないのだ。
調理したら美味しいのかもしれない。
でも調理する前に腐ってしまうので、先に食っておく主義だ。
それに、心臓を食うときだけは我慢が出来ないので、いつの間にか果物感覚で食ってしまっている。
前に一度、俺のその姿を見た朝に言われた。「オマエにしては美味しそうに、獣みたいに食うから寒気がした」と。
失礼な奴だと思う。
いつも無表情だからと言って、俺だって飯を愛(いつく)しんで食うときがないわけじゃない。
感情が無いから焦りも愛しさも、それらの表現の仕方も知らないだけで。
まあ、もう一度言っておくが美味しくはない。
もしも俺が微笑んでいたのなら、それは生理現象だ。



ポケットに突っ込んでいたスマホを取り出して時刻を確認する。
ボタンを押してから見える、ロック画面に映る文字。
もう2時になってしまったようだ。
秋の夜は、夏と比べると少しだけ肌寒い。
おかげで半袖の上に薄手の長袖のカーディガンを羽織ってしまった。
長袖なんてまだまだ着るつもりは無かったのに、それもしょうがないことなのだろうと納得させる。
何故なら、今の俺の家は森の中にあるからだ。
森と言えば、街と比べると年がら年中寒い。
冬なんか特に寒いから登校するときだってマフラーぐるぐる巻きにして、低温火傷することも考えずに、隙間なくカイロを貼って行く。
数年の間で思ったが、多分俺は一般よりも寒がりなのだろう。
これも森効果だな。



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