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ブリキ少年と死神と魔女の少女
第1話 :【その方向では】通過地点は逆方向でしょう:3 −1



某世界的炭酸飲料会社提供の、赤色の自動販売機の前に立って、少し考えながら小銭を入れる。
夏が明けて少し経ったけれど、この時期は暑いからな。
例年通りの秋に、日焼けした肌がまた少しだけヒリヒリしたような気がした。
これからもっと暑くなる。
なら今日は、スポーツ飲料でも買っておこうか。


ボタンを押して、ガコンという音と共に落ちてくる冷たい固体。
自販機の中に入っていたおかげで、ペットボトルはひんやりとしていて肌に当てると気持ちがいい。
流石に高い気温の中、冷たいモノを鞄に入れるという行動はとれないので、利き手じゃない方の手に持ち替えて学校への近道へと進む。
今日はプリント類が多いから、中身が濡れたら困るんだよな。
ちょっと面倒臭い(というのだろうか)けれど、しょうがないだろう。



──────ちりん、



一歩一歩、先ほどの自販機から離れるたびに鈴の音が鳴る。
何もないはずなのに、辺りからちりん、と一定のリズムを保って聞こえてくる。
恐怖心も持ち合わせていないし、気にしても無駄なので音を気にせず細い道を歩いて、大通りへと出る。



──────ちりん、



その瞬間、一際大きくちりん、と鳴った気がして後ろを振り返った。
何故、誰も居ない。
今の俺には比較的どうでもいいであろう疑問が脳裏に浮かぶ。
明らかに人為的じゃない音だ、とは思う。
少なくとも【人間】のやることではないだろう。
道端にいた小学生が騒ぎながら通り過ぎるのを数秒見つめて、息を吐いた。
埒が明かない。
こんな意味もないことをしても。この音の犯人は、きっと今は出てこないのだろうから。


スポーツバックの肩紐を掛け直して、もう一度目の前を見て歩き出す。
さっきの場所を離れると、あの鈴のような音は聞こえなくなっていた。
もしかしたら、俺の幻聴だったのかもしれない。
そう思うと何故だか勿体無い気がしてしまう。
少しずつ感じ出していた心地よさが、もっと聞いていたかったような錯覚を与えていたせいなのかもしれない。

なんて考えていたら、道の端を歩いていた同い年くらいの女にぶつかった。



「あ、ごめんなさい」

「あ、いえ。こちらこそ」



──────ちりん



一言二言交わして消えてしまう会話。
その後ですれ違った際の、綺麗な亜麻色のミルクティーみたいな色の髪に、一瞬だけ目を奪われてしまった。
さらさらと流れるストレートロング。
そして香る、ふわりとした何か。
彼女が歩くたびに聞こえる、鈴じゃない何かの音。
一体、何なのだろう。




一瞬だけ俺は、彼女の“心臓”に視線を当てた。






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