本気で叫ぶ5秒前! にのいち 緊迫する空気。 しん、と静まり返った辺りに、生唾を飲み込む音だけが聞こえてくる。 視線を互いに這わせ、アイコンタクトをすると同時に、勢いよく拳を突き出した。 「せーのっ!!」 「だっさなっきゃまっけよー!」 「「「最初はグー!じゃんけんっ」」」 「おっしゃああああああああああ!」 「・・・・・」 「負けたー・・・・うぅ、」 佐久間華、じゃんけんにて3人勝負で負けました。 ちなみに菊ちゃんも負けたようです。 手加減してやれよ、彼氏だろ。 図書館から出て、近くの公園まで歩く。 その道のりはとても日射しが強く、時々見える蜃気楼によって倒れそうになるものでした。 暑いのは嫌だな…。 「じゃあ負けたヤツがアイス買ってこい」 「アヤメ、菊ちゃんは行かなくて良いだろ。私が行くから」 流石にこんな暑い日にお姫様をふらつかせることなんて出来ない。 倒れたらどうしてくれる。 それに、自分の可愛い可愛い彼女をパシリにするとは何事だコイツ!! アヤメに睨みをきかせていると、突然右腕が傾いた。 「華ちゃん華ちゃん、アメくんのことは放って一緒に行こ?」 「き、菊ちゃ」 や、ヤバい。 目の前に天使が舞い降りた。 視界いっぱいに広がる甘さに、クラクラしそうになる。私の右手をやんわりと両手で掴んで、首を傾げながら上目遣いに私を見る菊ちゃんは、天使以外の何者でもない。 そう、天使だ。 こんな子がひとりでいて誘拐されないのだろうか。 いや、される。 アヤメなんかに任せてたら確実に誘拐される。 それなら、一緒に連れていった方が安全なのでは? 「…そう、そうだね。一緒に行こうか」 「うん!」 「アヤメ、菊ちゃんと買いに行ってくるから。文句言うなよ」 「おうおう、さっさと行ってこい」 犬を払うようにシッシと片手で行けとアピールする。 相変わらずこの男は最低だ。 ああ、腹が立つ。 それが人に対する物の頼み方か 「・・・・はぁ、」 本当に何で、こんな男が幼馴染なのだろう。 アヤメに背を向けて歩き始めた私は、菊ちゃんのアヤメへと向けた悪どい表情を知ることは、これから先も一生ない。 ****** 「いらっしゃい」 久し振りに踏み入れるお店は、相変わらずボロくて、木の軋む音や、木の臭いが凄い 。 そして夏はめっちゃ暑い。 利点と言えば、日差し避けになるくらいだ。 「華?久し振りねぇ」 数年ぶりに会う、懐かしい声。 久々に見たおばちゃんの姿、変わりない内装に頬を緩める。 いつまでも変わらないな、ここは。 「おばちゃんこんちは。あんま年食ってないな。美人美人」 「まぁたこの子はおだてて・・・・コーラオマケするよ」 「おっしゃ」 褒めれば褒めるほどオマケがつくことを昔に覚えたので、本日もその手を使う。常々思ってたけど、このお店よく破綻しないよな。 こんなにサービスしまくってるのに。 「今日は何だい」 おばちゃんの声がその場に響く。 アヤメの家の近くにあるこのお店は、私達がよく出向いていた駄菓子屋だ。 現在でもかなり繁盛しているようで、最近にしては珍しく閉店さえしていない。 きょろきょろとクーラーボックスを探して、夏の王道とも言えるソーダ味のアイスキャンディーを取り出した。 「アイス三本で」 「あらあら、菊乃ちゃん」 「こんにちはぁ」 花が飛ぶような笑顔を見せる菊ちゃん。 あああああ、可愛い。 激ヤバだ、写メりたい。 思わずその場で悶えていると、おばちゃんに相変わらずだね、と白い目で見られた。 酷い。何故だ。 菊ちゃんは天使だぞ。 「はい。一個80円で240円ね」 「はいよー」 「毎度。また今度ゆっくり話に来なね」 「はーい」 ガサリと小さめのビニール袋に包まれれば、ひんやりと少し重い固体がゆらゆら揺れた。 これでアヤメも満足するはず。 アイツは昔から、ソーダ味のアイスキャンディーが好きだったはずだから。 「じゃあ戻ろうか」 「うんっ華ちゃん、ありがとぉ」 『あやちゃん、ありがとう!』 「・・・・・・」 「華ちゃん?」 不思議そうな顔をする菊ちゃん。 瞬間的によみがえった記憶に、懐かしさから、あの日のような青々とした木々を視界に入れる。 back next [戻る] |