1 例えばまあ、自分が何気なく呟いて、 『チョコ作ろっかなぁ…』 『え、マジで?』 『え?』 突然好きな人が現れて、 『誰に作るの?』 『え、いや、特に決めてないけど』 『ならさ…』 自分に、チョコ作ってってお願いされたら、期待しちゃうでしょ? 『篠のチョコ、欲しいんだけど』 ********* 「・・・・・はぁ、」 黄昏に染まる空。 冬もそろそろ明けそうなこの時期に、放課後の教室、ひとりで席に座っている。 溜め息が、やけに重い。 だってさ、彼は甘いものが苦手で、その中でもチョコが大の苦手なのに。 「(勘違いするよね、多分個数の為だ。そうに決まってる)」 つけ上がって落とされないために、気分の悪い自己暗示をかけるんだ。 さいあく。 「(バレンタインの神様。せめて彼に食べてもらえないでしょーか)」 勝手に願ってみるけど 。 この状態から分かるように、私はチョコを頼まれた男、黄山晴が好きだ。 もう、一年近く片想いをしている。 入学してから、1年の時に同じクラスになって、段々と彼の魅力に惹かれていった。 私は所詮、彼の魅力に魅せられる大勢の中の一人にしかすぎない。 だって、ね。 どう考えても、叶うわけがない。 「(ばっかみたい)」 心の中で悪態をついて、後ろに隠した装飾してある箱をくしゃりと潰す。 だって去年は貰ってくれなかった。 なのに今年はって、おかしいでしょう? いまと同じように教室を黄昏に染めて、私達は向かい合っていた。 普段喋るときよりもとても緊張して、洒落にならないくらい震えて、勇気を出して、彼に渡したのに。 『…ごめん、貰えない』 『そ、そっか。私も、』 ごめんね。 無理なことさせてしまって。 何も知らないで貰ってくれると浮かれて、馬鹿みたい。 『篠のチョコなら黄山も貰ってくれるって!』 『仲良いもんねぇ』 そんなこと、無いんだよ。 一年前、友人が掛けた声に、心の中で返事をする。 距離は近くても何も知らなくて、彼が片思いをしてることすら知らなかったんだ。 本当に、最近知ったの。 好きな、人のことなのに。 「あーあ、自分で食べちゃおっかなぁ…」 結構力作だったんだけどなぁ 。 「まーた無駄な努力しちゃった・・・」 彼が無理しなくても食べれるように、考えて時間を使って、やっと作ったのが甘さ控えめのビターチョコケーキ。 けどもう、止めておこう。 『おーやま!上げる』 『お?ありがと!』 他の人からだって受け取ってたし、多分、私をからかっただけだ。 ツキリと痛む心臓。 自分自身で痛め付けていることに気付いて、嘲笑した。 「・・・あーあ、」 誰もいない室内に、空しく響く私の声。 その声を振り切って、手の中にある包装紙を破り、中身を取り出す 。 ぐしゃぐしゃだ。 何もかも。 綺麗に包んであった包装紙も、心の中も、私の顔も、全部全部、ぐちゃぐちゃ。 汚いものに見えてしまう。 やっぱり馬鹿だね、私ったら。 分かりきっていたことなのに、それでもとまだ期待して。 彼が来ることを期待して、手が震えて、前がぼやけて見えないじゃない。 「うわー、さいあく」 未練たらしくて、何だか嫌だ その感覚を振り切って、口に入れるために、チョコに視線を戻す。 するとどうしてだろう。やっぱりね、あれほど頑張って作ったものが、ゴミのように見えてしまうんだ。 どうしよう。 丹精込めたそれが、何だかチンケなモノに見えて。 私の思いも、傷ついてしまった心も、頬を伝う涙が消していっているみたいだ。 無かったことにしようと、無理矢理。 そっと座った彼の席。 涙が、机に落ちる。 大嫌いだ。 彼も、私も。 「いただきまーす…」 同時に、さよならと呟いた。 さよなら、私の恋心 2013年バレンタイン小説 backnext [戻る] |