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モテるあいつをどうにかしてくれ
3-3






電話してから間もなく、勢いよく保健室の扉が開けられた。


「輝! 無事か!!」


開けるか開けないかというところで、声を上げてくる。おれの姿を認めると、周囲の人間には目もくれずに駆け寄って来た。


「大丈夫か? 何処か怪我したのか? どうしたんだ?」


両手で肩、腕、腰と軽く叩きながら異常を確かめている。


「大丈夫、おれは何処も怪我してないよ、立秋」

「良かった…!」


おれが無事であることを知り、安心してか庶務役――立秋は熱く抱擁してきた。むしろ今の抱擁で何処か痛めたような気がする。しばらく好きなようにさせ、落ち着いた頃合いを見計らって肩を叩いた。この状況の中で、全く表情を変えていないのはおれの母だけだった。蘭ちゃんは元から大きい目を更に大きくさせて驚いていた。


「立秋、問題はおれじゃないんだ。こっちだよ」

「なんだ? ――ああ、いたのか」


ベッドを指差したことで、やっとおれ以外の人物が目に入ったらしい。ばつの悪そうな顔で、おれから離れた。おれの母は会釈をしている。


「済まない。保健室に来いと言われて、輝が怪我をしたのかと思って焦ったんだ」

「皆が驚いているのはそれだけじゃなとは思うけれどね。悪いんだけど、ソーイングセットは持ってるよね?」

「ああ、ある」

「じゃあさ、この衣装の裾、直してくれる?」


黒金くんから脱がせておいた衣装を立秋に手渡した。ベッドに横たわっているのが黒金くんだと気付き、少し目を剥いた。しかし何も言わずに作業に取り掛かる。


「…どうして?」


茫然として、蘭ちゃんが訊ねて来た。混乱したまま、頭がついてきていないようだった。

どうして、という言葉にはたくさんの意味が隠れているように聞こえた。

どうして知り合いなの?

どうして名前で呼び合うほど親しいの?

どうしてそれを隠していたの?

――どうして、騙していたの?

一言では答えられないほどに、多くの疑問が込められていた。


「輝、これを欲していたんじゃないのか」


答えを出しかねていたとき、また一人、保健室に来訪した。いつもは汗一つかくことなく、悠々と自分の速度であることしか知らないはずのそいつは、何故か汗だくになった状態で入って来た。片手に持っていた本を、おれの方に投げかける。


「え、これって」

「A組の台本だ。そこで寝ているのは、黒金だな。ふん、どうせそんなことだろうと思った。よりによって、こんな無謀なことをお前がやろうとするとは思ってもみなかった」

「それでも本を持って来ているじゃないか。しかも走って」

「冷静に考えたら悠長に歩いていては間に合わないことに気付いただけだ」


書記役――初春は腕を組み、そっぽを向く。蘭ちゃんは、何を言ったらいいのか分からない、といった状態で、口をぱくぱくと開閉させていた。初春は会計さんのことを無視し、おれの母の前へと歩み寄る。


「お久しぶりです、伯母様」

「お久しぶりね、初春くん」


かすかに微笑を湛えた初春の挨拶に、母も小さく笑って応えた。このやり取りに、蘭ちゃんは再度驚く。


「できたぞ」

「化粧品借りて来たよーって、あれ? どうしてここに小浜田と横山がいるの?」


説明したいことはたくさんあるけれど、説明するだけの時間はあまり残されていない。


「会計さん、おれに黒金くんぽく化粧してくれませんか?」


無茶苦茶な代役公演が、始まる。






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あきゅろす。
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