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モテるあいつをどうにかしてくれ
3-2
小浜田が何をしたいと願っているのか、横山はよく知っている。知っていて、煽るようなことを言っているのだ。小浜田には溜息を吐くことしかできない。


「だからと言って、本当に行かせてくれる訳じゃないんだろう」

「ああ、そうだな。良く分かっている。あれも、それを望んではいない。次、こいつを片付けろ」


目を通し終わったファイルを手渡される。そのタイトルを確認し、所定の場所に片付ける。


「あれのクラスには行けないだろうが、せめてその隣には行ってやったらどうだ。瀬戸口が喫茶店を開いている」

「瀬戸口か」


瀬戸口はE組の文化祭参加を必ず成功させると意気込んでいた。そのため、こちらに余り手伝いに来られないことを詫びていた。こちらとしては、清明院らが戻ったことに加え、その他の親衛隊長らが手伝いをしてくれたため、瀬戸口にはやりたいことをやるようにと言うことができた。

そして当日、E組は文化祭に参加することとなった。瀬戸口を労うくらいはしてもいいのかもしれない。瀬戸口の近くに彼がいる可能性も考えられたが、今頃は横山の言う通り、チラシを配っていることだろう。

片付けをしていた手を止める。


「悪い。行って来る」

「そうしろ」


生徒会室の出入り口である扉に手をかけたが、動きを止めた。ポケットの中のスマートフォンが震えている。着信を告げる振動だった。ポケットから取り出し、着信相手を確認すると、驚きのあまり声を上げてしまいそうになる。

半年近く、会話すら許されなかった人物からの着信だった。

通話ボタンを押し、震える手で耳に当てた。


「どうした」


通話相手からの返事は簡潔だった。


『立秋、一瞬で良い。保健室まで来てくれないか?』


切羽詰まったような口調だった。

何かがあった。

そう判断するには十分過ぎた。


「すぐに行く」


小浜田もまた簡潔に述べると、通話を切った。横山の方へ振り返ると、非常を感じたのか、椅子から立ち上がり、こちらを見ている。


「保健室に行く。すまん、初春――俺は約束を破る」


横山の顔を確認せずに、小浜田は全速力で駆けて行った。









横山は、小浜田の様子から、何が起こったのかを推測していた。

約束を破るという言葉と、保健室へ行くという言葉の2つから、考えられることは少なかった。可能性は低いが、全くないとは言い切れない。

小浜田が破る約束とは一つしかない。横山らの間で交わされた約束は一つしかないだめだ。それを交わしたのは小浜田からではない。よほどのことがなければ、向こうから破ることはない。だが、今の様子では、向こうが自ら破って来たようだ。

どうしても小浜田を呼ばなければいけない理由は僅かしかない。高いところに手が届かないか、不良クラスに襲われるか、程度だ。高いところに手が届かないなら踏み台を使えば良いし、不良クラスに襲われる程度で助けを求めるような人間でもない。保健室への呼び出しから、そいつが怪我を負った可能性も考えられたが、小浜田を呼びたくなるほどの重傷を負っていたなら、自ら連絡を寄こして来ることはできないだろう。あとは、可能性は低いが、ただ単純にソーイングセットとしての小浜田を必要としている場合もある。

時計を見た。もうすぐ、宮園らのクラスの公演が、体育館にて行われる。

もしかしたら、もしかするかもしれない。


「一応、念のため、A組から台本を借りてくるか」


横山は基本的に、身体を動かすのが嫌いだ。少しでも歩きたくない。そのために、本来生徒会室で待機しているべき、副会長である清明院の代わりに待機していた。それでも、これは動いておくべきだろう。恩も売れるかもしれない。

横山は清明院と花ヶ崎に、生徒会室を離れる旨のメッセージを送ると、鍵をかけて、生徒会室を後にした。





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