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モテるあいつをどうにかしてくれ
1-3

何度か瞬きを繰り返した後、おれの姿を見つけたようで、安堵したような笑みを浮かべてこちらに歩み寄って来た。


「輝ちゃん! 会えて良かった! 久しぶりー。一緒に座っても良い?」

「はい、どうぞ」


会計さんと会ったのは、夏休みの別荘での宿泊以来だった。夏休み中も生徒会役員達には仕事があったらしく、休暇中に会うことはなかった。そして学園に戻ってからも、文化祭の準備が始まり、忙しくなったため、おれの方まで来る余裕はなかったのだろう。ここで驚きなのが、会計さんが生徒会役員としての仕事をまともに行うようになったことである。会長さんは相変わらずらしいが、会計さんが復帰したことにより、蘭ちゃんが手伝う必要がなくなったらしい。夏休みにおれと蘭ちゃん、東堂と長道くんといったいつもの面々で集まることができたのはそのおかげであった。そして蘭ちゃんが自クラスの文化祭参加に全力を注げたのもそのおかげである。

噂によると、生徒会役員としての仕事がないときは、未だに黒金くんの周囲をうろついているらしい。もうそれほど黒金くんに興味はないと言ってはいたが、あれは嘘だったのだろうか。どちらにしろ、おれの周囲をうろつくことはなかったので、懸念していた嫉妬はおれに集まることはなかった。

それでも、おれを探していたようなことを言ったのは何故だろう。


「先に輝ちゃんの教室に行ったんだけどねー。何処かに行ったっていうからさー。行くならここかなって思って、来てみたんだー」

「そうですか。何か用ですか?」

「用ってほどじゃないけど、しばらく会えなかったから、会いにきたんだー」

「そうですか」


裏があるとしか思えないのはおれの性格が悪いからだろうか。

会計さんは、こう見えて勘が良い。おれが隠していたことにも勘付いてた。だからこそ、ただおれに会うためだけにここへ来たとは考えにくかった。


「貴方は今、生徒会役員として活動しているんですよね? こういう日は見回りを行っているはずです。その見回りを放棄させるほど、自分に価値があると思えないですけれど」

「はは、やっぱり面白いねー。輝ちゃん。見回り中なのは本当。輝ちゃんに会いに来たのも本当。でも、確かに、それ以外にも理由はあるんだよねー」


あっさりと裏に意図があることを認めた。

それが何であるかを追求する前に、長道くんが来る。


「いらっ、しゃいませ!」


相変わらず激しい動きでコップを机に置く。おれのときほどは勢いがなかったため、今度は水がこぼれなかった。


「これこれ。これがオレの目的」

「はあ?」


長道くんの顔を力任せに引き寄せる。有無を言わせない動作に、長道くんは対応できなかったようで、なされるがままになっている。


「男達がやるメイドなんて、酷い化粧になっていると思ったんだよねー。案の定ひっどい化粧」

「てめー、馬鹿にしに来やがったのか!」

「違うよ、違う。こういう美しくないのって、オレ、許せないんだよねー」


長道くんの頬を片手で押し潰す会計さんの笑みは、よく見ると眉間に皺が寄っている。長道くんの眉間にも、負けず劣らず大層な皺が寄っている。蘭ちゃんのために、辛うじて暴力行為に及んでいないだけのようだ。あともう少しで堪忍袋の緒が切れてしまうだろうことは見て取れた。


「あれ? 会計様?」


コーヒーを持って来た蘭ちゃんは、会計さんと長道くんの様子に戸惑っているようだった。

蘭ちゃんからコーヒーを受け取り、お礼を述べると、会計さんは蘭ちゃんの方へ向き直った。


「瀬戸口くんて確か、このクラスの学級委員長だったよね?」

「はい、そうですけど…」

「じゃあ、ちょっとこの子、借りても良い? 奥のスペースも借りたいんだけど」

「何をするつもりですか?」


蘭ちゃんが警戒心を露わにした。

生徒会書記役の親衛隊長ではあるが、同じく生徒会役員をしている人間の全てを慕っているという訳ではない。蘭ちゃんにとっては、生徒会役員である会計さんより、同じクラスの生徒である長道くんの方が優先度が高いようだ。

蘭ちゃんの様子に会計さんが苦笑する。


「ちょっと手直しするだけだよ」


言いながら会計さんがバッグから取り出したのは、化粧道具だった。






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