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モテるあいつをどうにかしてくれ
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白樺学園は全寮制学園で、基本的には外部に出ることがなければ、外部の人間が中に入ることもない。常から、この学園内にいるのは漏れなく学園の関係者だ。生徒達だけではなく、この学園内で働く大人達も敷地内にいるが、それ以外の人間はいない。

そんな学園に2日間だけ、外部の人間が足を踏み入れることを許される日がある。体育祭と文化祭だ。それぞれ1日ずつしか開催されない行事ではあるが、これらの日だけ、家族や他校の友人を招くことができる。誰でも入ることができる訳ではない。在校生には3枚ずつ、入場チケットが配布される。在校生はそのチケットを家族や友人に配るのだ。そして、中に入ることができるのは、そのチケットを持った人達だけということになる。元々、閉鎖的な学園であることもあり、他者からのこの学園への関心は高い。それで関心を持っている人達を全員入れてしまっては、如何に広い学園と言えども人であふれかえってしまうだろう。加えて、金持ちの子ども達が多く通うので、変な人間を入れることはできない、という点からの措置であると考えられる。

一般の人達が来るということもあり、生徒達の行事への力の入れ具合は半端なものではない。多くのクラスの出し物が中々高い質で作られている。

おれの所属するD組は、お化け屋敷を催している。おれも制作には携わった。このクラスは中学まで一般社会で生活していたせいか、他のクラスに比べて、質は低い。一般の高校の行っているお化け屋敷と大差ないだろう。しかし、同じお化け屋敷を披露しているB組では、遊園地も真っ青な出来となっているらしい。

文化祭当日のおれの仕事は一日中チラシ配りによる呼びこみをすることである。お化け役ではなければ、受付係ですらない。流石にここまで何の貢献もできない係は嫌だったので、お化け役を買って出たのだが、お前の無表情では何も怖くない、という理由で却下されてしまった。無表情というつもりはないのだけれど。ただ表情筋の動きが鈍いだけで。

人が多いおかげか、あっという間にノルマのチラシは配り終えてしまった。

念のため、受付係をしている委員長に断り、他のクラスの出し物を見ることにした。

そうなると、真っ先に行くべき場所は隣のE組の教室だろう。


「いらっしゃいませー!」


入口のドアを開けて飛び込んで来たのは、筆箱でも消しゴムでもなく、野太い声だった。

何に対する挑戦なのだろう。E組はメイド・執事喫茶を開いていた。

E組という不良クラスが文化祭に参加していること自体が珍しい。他の学年のE組はどちらも何も出し物をしていないらしい。つまりは不参加を決め込んでいるのだ。2年E組がイベントに参加しているのはやはり、学級委員長である蘭ちゃんの力に依るものだろう。

しかし、どうしてメイド・執事喫茶なんだ、蘭ちゃん。

ここは男子校である。そしてここは不良クラスである。不良と言えども、勿論ごつい連中ばかりがクラスにいるのではない。細い生徒もいる。けれど、女の子と見紛うほどに細く、小さく、愛らしい生徒は蘭ちゃん以外にはいない。その他に最も細い人間といえば、東堂であるが、あいつの身長はおれよりもやや高い。とても女の子の格好ができる体格ではないのだ。

それなのに何故メイド・執事喫茶。どうしてメイド要素を足したんだ執事喫茶ではいけなかったのか、蘭ちゃん。


「―――い、らっ、しゃい、ま、せー………っ!」


いつぞやにも聞いたような憎々しげな接客用語を述べてくれたのは、いつにも増して恨めしそうな顔をしている、メイド服姿の長道くんだった。





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