モテるあいつをどうにかしてくれ 3-4 こんこんこん、とやや几帳面に響くノック音が聞こえた。 「入るぞ。立秋はいるか」 部屋から許可の声が発せられるより早く、横山が入室して来た。基本的に、人の言い分を聞く気のない横山にとっては、許可があろうがなかろうが、関係のないことなのだろう。常と同じく、不機嫌そうに歪められた眉根は、黒金の姿を捉えると同時に更に深く皺を刻んだ。 眼鏡のずれを直しながら、小浜田に向き直って言う。 「夕食まで、ここにいさせてもらおう」 「いいぜ! でもどうしたんだ?」 横山は小浜田に向かって言ったのだが、小浜田が応えるより早く、黒金が応えてしまった。小浜田と横山は揃って嘆息するが、黒金にそれを気にした様子はない。むしろ、普段関わることのない小浜田と横山が揃ったことに対して、喜びを感じているようだった。 「自室では少し問題があったからこちらに邪魔させてもらった。座るぞ」 横山は小浜田の座っていた向かいのベッドに腰掛け、再び嘆息する。 「問題? 何があった?」 「俺の同室者だ。彼ら2人に問題はないが、彼らはあれのお気に入りだ」 「ああ…」 「ん!? なあ、なんだ!? どうしたんだ!?」 小声でやり取りをしたため、黒金には聞きとることができなかったようだ。 小浜田は、もしかしたら、黒金の声が大きいのは、黒金の聴力が弱いためなのかもしれないと内心苦笑する。 「立秋」 横山は尚も小声で話す。黒金のことは徹底的に無視することに決めたらしい。 「お前、まさか俺の部屋に行きたいなどとは考えていないだろうな」 思ってもいなかった。 横山は、彼との接触を避けて、小浜田のいる部屋まで逃げてきた。つまり、今、横山の部屋に行けば、彼がいるということになる。 一瞬、心揺さぶられた誘惑だったが、小浜田はかぶりを振った。 「そんなことは考えてない」 「どうだか」 「お前の世話を瀬戸口達に任せるのは可哀想だから、代わってやりたいとは思うがな」 「その場合、瀬戸口達がこれと同室になるということだろう。その場合、どちらが可哀想なんだ」 「それもそうか」 会話に入ることができないと諦めたのか、黒金はスマートフォンをいじり始めた。それをいいことに、小声ではあったが、横山の言には遠慮がない。元々、横山が遠慮している場面など、小浜田が出会ってから一度も見たことはなかった。 「お前があれに執着しているのは知っている。これはあれのためでもある。今回のあいつの登場で、良策だったと、お前も納得しただろう。今更何を未練がましく想っている」 「執着している訳じゃない」 ちゃんと食事はとれているか――料理上手の人間がいるから問題ないだろう。 ちゃんと友達はできたのか――彼を慕ってついてきた人間がこの別荘に入る、大丈夫だろう。 ちゃんと勉強はついていけているのか――特待生としての成績を維持しているらしい、異常はないだろう。 理解しているが心配してしまう。 横山にとって、それが執着に見えるのだとは、認めたくはなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |