モテるあいつをどうにかしてくれ 2-3 黒金くんの叫び声を窘めるように、会計さんがまぁまぁと、声を出す。 「みーんな、それぞれ希望の相手がいるでしょー。真弥ちゃんなんて、一番モテモテだしねー。このままだと喧嘩になっちゃうでしょ? だから、ハイ、あみだくじだよー」 「あみだくじっっつったて、その紙、縦線しかねーじゃねーか」 「せっかちだなぁ、かいちょーは。ここにね、一人3本ずつ、線を引いて行くの。それから、順番にここに自分の名前を書いて行くの。で、同じ番号の人達が、同じ部屋になるの。1部屋だけ3人になるけど、そこは勘弁してちょーだいね。じゃあはい、かいちょーから順番に線を引いて行ってよ」 「名智! オレが先に引いてもいいか!?」 「良いぜ、先にやれよ」 「よっしゃ!」 黒金くんは、会計さんから紙とペンと受け取り、唸り声を上げながら悩み、随分と時間をかけて3本の線と、自分の名前を記入した。てっきり、3本の線を全員で引き終わった後に、もう一周して名前を書くのだと思っていたが、そうではなかったらしい。横目で会計さんの顔を見てみると、苦笑していた。やはり、線を全員が引き終わった後に、名前を記入してもらう予定だったのだろうか。 だからと言って何が変わる訳ではない。そう思ったのかどうかはわからなかったが、会計さんは何も言わなかった。 生徒会役員全員が線と名前を記入し終えると、渡部くんの番になった。あみだくじはもう、随分と線で一杯になっている。3本の線を引くと、渡部くんは会計さんの隣に自分の名前を記入した。 おれの番になった。 何処に線を引いて、何処に名前を書いて、誰と一緒になろうとも変わらない。できたら、生徒会役員と同じ部屋にはなりたくなかったが、ここでそんなことを言っても無意味だろう。もしも一緒の部屋になってしまったら、諦めるしかない。 適当に線引き、適当に名前を書いて、東堂に回した。東堂も長道くんも蘭ちゃんも、さして悩むことなく、記入を終え、会計さんに紙を戻す。 「あっ、はいはーい! オレが線を辿りたい! やってもいいか!? 裕太!」 「いいよ、はい」 先ほどまで使っていた黒いペンではなく、赤いペンを黒金くんに手渡す。 「えーっと、まず1番! 東堂と清明院! 雅と、もう一人は誰だ?」 「ええと」 先ほど自己紹介をし合った仲でしかないので、ほぼ初対面だ。東堂は前を向いたまま、片手を挙げ、軽く振る。 「よろしくねー? 副会長」 「あ、はい! よろしくお願いします」 副会長さんは応えるように、爽やかに笑んだ。誰だ、この人を腹黒系副会長だって言った奴。滅茶苦茶爽やかな人じゃないか。 「次! 2番! 裕太と名智!」 「あちゃー、一緒の部屋になれなかったね、輝ちゃん」 おれとしては有り難いことこの上ない結果だ。 「よろしくねー、かいちょー」 「…おう」 黒金くんと同じ部屋を狙っていたのだろう、会長さんは不満そうだった。 「次! 3番! 瀬戸口、初春、長道! 3人部屋だな! 瀬戸口と長道って誰だ?」 返事はない。 身を乗り上げて、前の席の2人の顔を見てみた。蘭ちゃんは憧れの人と同じ部屋ということで、顔を赤くし、長道くんは大好きな蘭ちゃんと同じ部屋ということで顔を赤くしている。それぞれの理由で喜んでいる2人には悪いが、こうなってしまっては仕方ない。おれには言わなくてはならない台詞がある。 2人の肩に手を置き、2人にか聞こえないように小さな声で呟いた。 「頑張って」 この2人ならどうにかなるだろう。 しかし、言わずにはいられなかった。 「何?」 「何の話だ?」 2人は同時におれに訊ね返す。息がぴったりだ。けれど、おれには答えることができない。静かに自分の席に座り直し、次の発表を待った。 「次! 4番! お! おれと立秋だ! やった! よろしくな!」 「…よろしく」 一拍置いて、庶務役が応える。 無言ながらも、目の前の蘭ちゃんが反応したのがわかった。 蘭ちゃんは、書記役の親衛隊を中心に活動しているが、庶務役の親衛隊も兼ねている。庶務役は人相の悪さからか、生徒会役員でありながら、人気は低い。何を考えているか分からない、怖い、というのがその評価だ。生徒会役員となる前の、去年まではE組生徒であったため、そのことも関係しているのだろう。しかし、蘭ちゃんにとっては庶務役も憧れの人であることには変わりがないため、例外的に2役を兼ねているのだ。これは、書記役と庶務役が常に一緒に活動しているため、認められているようなものである。 その庶務役と、例の黒金くんが同じ部屋というのは、蘭ちゃんにとっては看過し難いことだろう。それにしても、反応し過ぎのような気がしないでもない。 そして、部屋割り発表も残りは1組となった。 「えーと、最後! 鈴木と渡部! 誰だ? こいつら」 こいつらとは失敬な。おれのことを認識していなかったらしい事実は非常に有り難いことだけれど。 黒金くんの言葉を無視し、後ろに振り返った。 「これからよろしくね、渡部三也くん。みっちゃんて呼んでもいい?」 親衛隊所属の可愛い同室者にはやはりこれだろう。 短期間の同室者となる彼に、許可を求めるように手を差し出した。 戸惑いながらも、渡部くん――みっちゃんは手を握って応えた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |