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モテるあいつをどうにかしてくれ
1-1

生徒会室でのやり取り以降、会計さんは授業中に乱入してくることはなくなった。正確には一度あったのだが、断固として拒否していた。一度ならず二度までも、授業を休んで出遅れる訳にはいかなかった。おれの決死の拒否は休憩中にも及び、主に蘭ちゃんに会いに行くから、と断っていたら、面倒なことになってしまった。


「ね、夏休み、一緒にオレの別荘に行こ?」

「何故ぼくが貴方の別荘に行かなくてはならないんですか」

「君が来てくれたら、輝ちゃんが来てくれるからねー」

「ぼくは餌ですか」

「ふふ、横山も来るよ。小浜田も来るけど」

「………っかりました! 行かせていただきます」


書記役と庶務役の2名が呼ばれて行くとなって、親衛隊長の鑑たる蘭ちゃんが行かないと言えるはずがなかった。それを分かった上で、餌を用意してくる会計さんは、それほど本気で蘭ちゃん――あるいはその後ろにいるおれ――を誘いたいとしてここまで来たのだろう。ただでさえ毛嫌いされている金持ちクラスの人間がE組にいるとして、空気が悪くなっているというのに。

しかし、蘭ちゃんが行くということは、おれが行くとい言うよりも先に、


「待て! 瀬戸口が行くなら俺も行く!」


案の定、長道くんが名乗りを上げた。


「ふぅん? 君ってなに? 瀬戸口くんのお友達? 横山にとっての小浜田みたいな――番犬みたいなもんなの? いいよ、一緒に来ても。しっかりこの子を守ってねー」


くしゃくしゃと蘭ちゃんの頭を撫でる会計さん。それを見て、ぎりぎりと歯ぎしりをする長道くん。

羨ましくも、馴れ馴れしい。馴れ馴れ馴れ馴れしい。

これはさすがに注意しなければ。長道くんは注意する云々よりも羨ましさが先立ってしまっている。ここは、まだ冷静さを保っているおれが注意せねばならないだろう。


「羨ましいですよ、会計さん」


あ。間違えた。


「馴れ馴れしいですよ、会計さん」

「輝、何でいまやり直した。最初に言ったの、絶対本心だっただろ」


うるさい、東堂。細かいことは気にするな。


「いいところに来たね、輝ちゃん。ね、夏休み、一緒におれの別荘に行こ?」

「蘭ちゃんと長道くんが行くので行きます」

「即答だな。じゃあ、俺も着いて行っていいよね?」


割り込むようにして東堂が言う。予定外の参加希望者に、会計さんは怪訝な顔をする。


「何故君が来るの?」

「領介の保護者みたいなもんだよ? 俺。連れて行かないと、後悔するよ?」

「何処かで聞いた台詞だな…。わかったよー、おいでよ、君も」

「ありがとさん」


これで、会計さんが当初予定していたよりも2名も多い状態になった。しかし2名程度増えたところでどうということはないのだろう。あっさり了承した。


「裕太! 夏休みに別荘に行くって本当か!?」


勢いよく、招かれざる客が乱入してきた。

黒金くんだ。

E組の不良達のみならず、蘭ちゃんまでも眼光が鋭くなる。E組には既に、黒金くんは蘭ちゃんに危険を及ぼす可能性の高い存在として認識されている。E組は蘭ちゃんや東堂らに統率されてはいるが、全員同じ意思を持って従っているのではない。彼らを素直に尊敬して従っている者のみではない。純粋に蘭ちゃんを慕って従っている者も多くいる。その横には長道くんがいるため、恋心を抱くには至っていないのだが、ファン――蘭ちゃんに女装をして欲しいという人も多くいるらしい。蘭ちゃんが相談してきた――というに等しいだけの熱は持っている。そういう人達は、蘭ちゃんの危険に関しては人一倍敏感になっている。そういう人からの眼光が特に鋭い。

そんな眼光すらも気にしないのが黒金くんだけれど。







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