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モテるあいつをどうにかしてくれ
3-3

それから、午前中の授業の間は、会計役がD組に顔を出すことはなかった。弁当を持ち、E組に移動するときも警戒していたが、来る気配はなかった。会計役本人ではなく、会計役の親衛隊長が、様子を確認づるかのように一時的に顔を見せた。だが、何を言うでもなく、ただ、おれを一睨みするだけで去って行った。

おかげで、おれは安全にE組に入ることができた。ここからがおれの正念場だ。

目的の人物である蘭ちゃ――瀬戸口くんは、席を作っておれを待っていてくれた。


「遅かったね、何してたの」

「いや、何って訳じゃないんだけれど」


B組教室を警戒していたという理由もあるが、何となく、今しようとしていることを考えると、気が進まなかったのだ。


「輝? どうした?」


察しの良い東堂が訝しげに訊ねてくる。こういうときくらい鈍くてもいいというのに。

おれは深く息を吸い、蘭――瀬戸口くんに向き直った。


「ら――瀬戸口くん」

「え、なに、改めて」

「今まで、馴れ馴れしく接しててごめんなさい」

「え、ええ? 何? 何があったの、急に」

唐突なもの言いに混乱している。それはそうだろう。つい今朝がたまで、蘭ちゃん蘭ちゃんとひっついて周っていた人間が、その日の昼には手の平を返したように居住まいを正してしまったら、それは混乱する。しかしおれが改心したのも、今朝、彼と別れてからのことだったので、そこはご容赦願いたい。

このまま混乱させたまま自己完結しても忍びないので、事情を説明する。


「実は、今日、会計役がおれのクラスに来ましてですね。そこで色々とあった訳なんですが、そのときにいきなり『輝ちゃん』呼びされまして。その馴れ馴れしさがものすごく不快だったのですよ」

「だから、今まで名前にちゃん付けしてた自分を省みて、反省してるってこと? 相変わらず、輝って発想が面白いなー。」


東堂が横から茶々を入れてくる。


「あー、今更いいよ。好きに呼びなよ。最初は嫌だったけど……今は気にしてない。と、友達でしょ」


顔を逸らしながら、そんなことを言ってくれる。よく見ると、耳は真っ赤に染まっていた。天使か。

今、聞き流してしまいそうだったが、何て言った。


「今、おれのこと、友達だって言ってくれた?」

「だからなに? 違うの? あんたが先に言ったんじゃない」

「ううん、友達だよね。ありがとう、蘭ちゃん」


先月の話だろう。おれが蘭ちゃんを友達扱いしたとき、蘭ちゃんは疑問符を呈した。あれは、おれのことを友達として認識していなかったからだと思っていたが、そうではなかったようだ。片想いではなかった。

不愉快だったのだ。会計役に輝ちゃんと呼ばれたことが。背中が粟立った。

大して親しくもないく、親しくなる予定もないくせに、いきなり名前にちゃん付けで呼んでくるのだ。あれは、おれとの間に何かがあると黒金くんに思わせるためにああやって親しげに見せていたのだ。おれを利用しただけなのだ。

もちろん、おれは蘭ちゃんのことを利用するつもりなんてない。素直に仲良くなりたくて、蘭ちゃんが心底可愛くてそんな呼び方をしていたのだ。

可愛いでしょう。蘭ちゃん。


「俺も友達だからね、輝」

「お、おお、ありがとう、東堂」

「俺はてめぇを友達とは思っちゃいねぇからな」

「お、おお、そうか、長道くん」


おれは友達だと思ってるけどね、長道くん。


「何はともあれ、何処をどう気に入ったのかは分からないけれど、会計様があんたに接触してきたんでしょ。丁度いいから、今度会いに来たら、仕事するように言ってよ。あんたならできるでしょ」


それも先月の話だろうか。蘭ちゃんの前で、親衛隊の隊長達を説教してしまったことだろう。あんな屁理屈でも、その日から親衛隊が仕事を手伝うようになり、その効果を狙っているのだろう。元から仕事をやっていた会長さんらが仕事をしなくなった損害は大きい。生徒会役員でなければできない仕事があるのだ。







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