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モテるあいつをどうにかしてくれ
2-1











清明院は迷っていた。今、目の前にいる、寝癖のついた生徒に全てを話してしまってもいいものか。見も知らない生徒に話すような内容か。この生徒はその話を他言しないのか。眠そうに半開きにされた目からは何も読み取れない。気の抜けた顔からは、何を考えているのか察することができなかった。

この生徒は少なくとも、E組生徒ではないだろう。E組生徒は制服を着崩していたり、ピアスを開けていたり、髪の色をカラフルに染めていたりという、派手な外見を持つという共通点がある。たった一人の生徒を除き、皆がそのような容姿でいると聞いたことがある。その生徒も、小柄な生徒だという話なので、見たところ、自分とさして変わらない身長のこの男子生徒はその生徒ではないだろう。また、A〜C組生徒であれば、自分に対して、こうも気楽に話しかけてはこないだろう。そうであれば、この生徒はD組生徒であるはずだ。E組生徒はよく分からない団結力があるため、脅しをかけることはできない。A〜C組生徒に脅しをかければ、瞬く間にそのことが周囲に知られてしまう。しかしD組であれば、他クラスとの関わりが最も薄い。脅しをかけたとしてもそれを知られる可能性はとても低い。

話すのであれば、他言しないように脅しをかける必要がある。そして、何故脅しをかけたのか、知られないようにする必要もある。だからこそ、脅しをかけていることを他者に知られる訳にはいかない。

そこまで思考し、答えを出す。


「黒金、という生徒を知っていますか」


一人の生徒の名前を口に出す。名前を出してしまえば、もう後には退けない。


「有名ですからね」

「そうですか。問題は、彼が編入してきたときから、起こっているような気がするのです」


そうなのだ。それまでは、生徒会はぎこちない不和を持ちながらも、平穏に機能していたはずなのだ。

宮園が会長であることに不満を持っていることは知っていた。しかし、それでも、仕事はしていたのだ。


「彼が編入した際に、私達生徒会は、彼を守るように命じられました。その際に、初めに彼を出迎えに行ったのは私です。そのときから私は彼が――合わないと思っていたのです」


ぴくり、と生徒の肩が動いた。しかし何も言わない。


「彼の容姿の持つ印象は、最悪、の一言に尽きました。学園の、この、白樺学園の編入初日ですよ? それなりの身だしなみを整えてくるべきでしょう。しかし、彼は理事長のお孫さんです。理事長もいくら孫が可愛いとはいえ、身だしなみについて、何も言っていないはずがありません。何か、理事領の思いあってのあの格好だったのでしょう。そう思い直しました。しかし、彼の第一声が、『あんたがオレのことをじいちゃんのところまで送ってくれるんだよな?』ですよ。しかも『頼んだ』とまで言いました。ええ、忘れもしません。『じいちゃん』ですって? 自分の祖父であろうと、学園に入れば『理事長』と呼ぶのが筋でしょう。そうでなくとも、初対面である私には『祖父』と呼ぶべきだったのではありませんか? 初対面の、私に対して敬語を一切使おうとしなかったことは百歩譲って許したとしても、あの、上から目線の話し方が…!」


更に黒金は無理して笑うなとまで言った。何故笑っていたと思っていたのだ。自分を保つために、無理してでも笑っていたのだ。あのときは、笑っていなければ、自分らしからぬ暴言が出てしまいそうだった。

ふと目の前の生徒を見てみると、先ほどまでの眠たげな目が嘘のように大きく開かれていた。しかし、口を挟むことなく静かに聞いている。自分が見ていることに気付くと、彼は続きをどうぞ、とばかりに手の平をこちらに向けた。

そう言えば、と思い返せば、彼は初対面ながらしっかりと自分に敬語を使ってきた。ネクタイの色からすると同学年であると分かる。同い年だと分かっていながら、親しくないからと敬語を使った。その時点でかなりの好感を持てる生徒だ。

清明院は、最後まで話をする決意を固めた。





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あきゅろす。
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