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モテるあいつをどうにかしてくれ
1-2


「ごめん、今日は先に帰ってて」

「あ、おい!」


しばらく、東堂が追いかけてくるような気配はあったが、すぐに撒けた。逃げ足には自信があるのだ。

副会長さんとぶつかってから間もなく出発したので、遠くには行っていなかった。しかし、周囲に人がいないところまで移動するのを待ってから近づく。彼は生徒会室へは行かず、利用者の少ない地学教室にふらふらと入って行くと、適当な席に腰かけ、机に突っ伏した。深い溜息が、入口のここまで聞こえてきそうだった。

副会長さんの目の前まで行く。椅子を出し、腰かけた。椅子を引く音で、自分以外の人間がここにいることに気付いたらしい。びくりと肩を揺らした。


「こんなところで、どうしたんですか?」


副会長さんは土気色の顔を上げ、首を傾げる。


「君は…?」

「おれは通りすがりの者です。珍しいところに珍しい人が入って行くな、と思って。声をかけてしまいました。お邪魔なら出て行きますが」


流石に、後を着けて来た、とは言わなかった。

副会長さんはかぶりを振ると、ここにいてくれて構いません、と続ける。


「少し、話をしても良いですか?」

「はい、どうぞ」


一人になりたかったのかもしれない。そうも思ったが、やはり放っておけずにここまで来てしまった。正直、おれは副会長さんのことは良く知らない。いつもにこにことしているところが、王道総受けの副会長としては満点だな、としか思っていなかった。黒金くんが来てからも、ただ、彼を追い回している様子しか知らなかった。その間に副会長さんに何があって、何を思ってきたか、まるで知らない。ここで、王道だったなら、仲良くなりつつある主人公と会長または会計役に嫉妬する副会長の図というのが成り立つのだろうが、今の副会長さんからはその様は全く見てとれなかった。色恋に悩む人間の顔ではない。

そうだとしたら――色恋に迷っているのでなければ、もっと別の何かを抱えているのであれば、総受けやっほうと喜んでいたおれは、大きな過ちを犯していたのではないだろうか。

初めて会うような生徒に話していいものか、信用できないのだろう。しかし、おれとしても、ここで引き下がるわけにはいかない。王道総受けを阻止するにしてもしないにしても、この話を聞かなくてはならないような気がした。

自分でも、らしくないことをしているとは思っている。

生徒会役員というだけで、本当は喋るべきではないのだ。後を着けるべきでもなかった。関わるべきではないのだ。

それでも関わってしまったのは、副会長さんのあの顔を見て、体育祭のときの蘭ちゃんを思い出してしまったからだろう。精一杯頑張っているけれど、限界がある。頑張っているのに、思うように行かない。どんなに頑張っても限界が見える。

そんな顔と重ねてしまったから、ここまで付いてきてしまったのだ。


「黒金、という生徒を知っていますか」

「有名ですからね」

「そうですか。問題は、彼が編入してきたときから、起こっているような気がするのです」


彼は――副会長さんは恋になど迷っていなかった。

黒金という人間の名前に、いっそ悪意さえ抱いていそうな響きを纏わせていた。






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