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モテるあいつをどうにかしてくれ
2-2

理事長室での話は呆気なかった。黒金がA組配属となったこと、有事には生徒会が助けてくれることなどを伝えられた。

続いて案内された生徒会室には、会長と会計の姿はなく、書記の横山と庶務の小浜田の2名しかいなかった。簡単な挨拶だけを交わした。黒金の第一印象としては愛想のない2名だった。清明院のように名前で呼ぼうとしたが、睨まれ、頑なに拒否された。仲良くなるためにはまず名前を呼び合うところからだと考えていた黒金としては、出鼻をくじかれた形だった。

会長である宮園と、会計役である花ヶ崎との初体面は、食堂でのことだった。


「なんだ、てめぇ」


清明院に案内されて食堂に入って来た黒金に、宮園が放った第一声がそれだった。喧嘩腰の口調が気に食わなかった。


「お前の方こそ、いきなり何だよ!」


黒金の返答に、周囲が一気にざわつく。

清明院が黒金を案内したのは、生徒会役員の専用席ではなく、A〜C組の生徒が多く使う席だった。普段、生徒会役員席で静かに食事している清明院がこちらの席にいるというだけで周囲は黄色い声で埋め尽くされていた。そのすぐ隣に見慣れない姿の男子生徒がいるということで嫉妬の嵐となった。そんな中、宮園が彼らに話しかけることにより、一瞬だけ静けさを取り戻した。珍しいところで食事を摂ろうとしていた清明院に気付いた宮園がそちらへと近づくことにより、静寂の中、その流れは見守られた。

喧嘩腰の宮園に勝るとも劣らない喧嘩口調の返答に、周囲の反感を買ったのだが、黒金はそんなことにはお構いなしだった。


「初対面の人間に、いきなり失礼だろ! もっと丁寧に接しろよ!!」

「てめぇ、俺が誰だか知らねぇのか?」

「知る訳ないだろ! 自己紹介もされてないんだから!」


その言葉に、更に周囲の喧騒が強くなる。聞こえてくる声は、会長様をご存じないとは何事だ、という内容がほとんどだった。向かいでは清明院が頭を抱えていたが、そんなものは黒金の視界には入らない。


「へぇーえ? 面白い子じゃん。オレ、花ヶ崎裕太っていうの。生徒会会計役。で、こっちが、生徒会長の宮園名智。よろしくねー?」

「ちょ、おい!」


宮園の後ろから、垂れ目の男――花ヶ崎裕太が顔を出した。

焦げ茶色に染められた髪は、耳の下までは刈り上げられ、耳の上からは緩くパーマをかけられている。猫背気味ではあるが、黒金や宮園と同じ視線に立っていることから、実際の身長は彼らよりも高いであろうことが窺える。


「そうか! 生徒会だったのか! オレは黒金真弥! 真弥って呼んでくれ!」

「へぇー、よろしくね、真弥ちゃん」

「おう! 裕太!」


あっという間だった。

毛色の変わった猫として、花ヶ崎に気に入られるのは一瞬の出来事だった。周囲の喧騒はとうとう憤怒の色を帯び始める。そのことに気付いていたのは、この場では清明院のみだった。


「3人共、いい加減大人しく食事をしてはいかがですか? ここでは落ちつけないようでしたら、奥の席へ行きましょう」

「奥の席? あの壁の向こうか?」

「そうです。何代か前に生徒会が作らせた専用席です。ここでは騒がしくて喉を通りません。行きましょう。名智と花ヶ崎さんも一緒にいらしてください」

「っち!」

「はいはーい」


舌打ちをしながらも、宮園の目元が赤い。このことに気付いていたのは、この時は花ヶ崎のみだった。

この日から、黒金もまた生徒会と共に奥の専用席で食事を摂ることが恒例となった。そして、何が気に入ったのか、宮園が黒金を追いかけ回すようになった。何かを話しかけようとするのだが、その鬼気迫る雰囲気から、黒金は本能的に逃走してしまったのだ。それが何度も繰り返されるようになり、その名智を追って清明院が走り、3人が走っているところを目撃して面白がる花ヶ崎がくっついて行くという構図が成り立っていた。

何となく、追いかけっこも楽しいものだと、思い始めていた頃だった。



「なんでこんなことになってるんだよ………!」



体育祭当日に、生徒会室まで追い詰められた黒金がいた。





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