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モテるあいつをどうにかしてくれ
1-2

蘭ちゃんのところまで来ると、思っていた以上に慌ただしかった。本部席の脇で、蘭ちゃんが慌ただしく、方々へ指示を出していた。


「そっち! 怪我人はどうなっている!?」

「なんとか救護室に案内できました!」

「わかった! 水の手配は!?」

「A〜C組への手配は間に合いそうだ! これから行ってくる! 実行委員を借りるぞ!」

「任せた! A〜C組の実行委員と学級委員は彼に着いて行って!」

「ええ!? ぼくたちが行くの!?」

「当たり前だろ! お前らのクラスの水だぞ!! がちゃがちゃ言ってないで早く来い!! ―――あ、鈴木じゃん。すまん、通るぞ」


我がクラスの学級委員長がA組の実行委員の腕を掴んで走って行く。その後ろから、嫌々ながらもB組とC組の実行委員も着いて行った。

中心に動いているのは、蘭ちゃん達、各学年のE組生徒の学級委員長と実行委員のようだ。金持ちクラスのA〜C組の生徒はおろおろしながらも、彼らの指示に着いて行くので精一杯のようだった。

殺気だっている中に話しかけるのは勇気が要ったが、ここまで来てしまっては、このまま行くしかない。


「お疲れ、蘭ちゃん。はい、水筒とタオル」

「鈴木…、ありがとう」


何かしら一言二言、お小言があるかと思ったが、疲れているのか、それどころではなかったようだ。


「一体なにがあったの?」

「…一言で言えば、事前準備の不足、だね。ここまで酷いことになるとは、ぼくも初春様も気付かなかった」

「事前準備の不足…。何がどうなってるの?」


蘭ちゃんは水筒からお茶を飲み、一息つくと話し始めた。


「まず、救護室の確保ができていなかった。毎年、運動場に面している、地学教室が救護室になっていたものだから、今年も使えると思っていたんだ。そしたら、まだ許可が下りていなくて、鍵がかけっぱなしになっていたし、救急セットももちろん置かれていない。当日の朝になって保健医の先生が気付かれたんだ。そしたらプログラムの案内にも救護室の案内が漏れていたから、大混乱だよ」

「え!? 救護室!?」


慌てて自身作のプログラムを確認するが、確かに、救護室の案内はない。記載した覚えもない。


「ごめん、蘭ちゃん。おれ、図書委員だったから、このプログラム作成担当だったんだ」

「いや、そもそも救護室の確保と、その案内を入れるよう要請していなかったぼくたちの責任だ」


蘭ちゃんは被りを振って否定してくれる。優しい。


「ちなみに、今、うちの要くんが走って行ったのは何だったの?」

「あれは、毎年、全クラスに飲料水の用意がされていたんだけど、今年はなかったんだ。その用意を忘れていたというか。これも案内には入れ忘れていた。D組は元々、外部の生徒達で構成されているおかげで、皆水筒を持ってきていると要くんから聞いた。E組は、ぼくが念のため水筒も持参するように連絡しておいたから多分大丈夫だろうということで、A〜C組の水を優先させたんだ」


だからあんたが水筒をちゃんと持ってきてるようで安心した、と話を続ける

さすが金持ち学園。水の用意すら、自分達ではしないらしい。おれ達のような、一般の中学校での体育祭を経験している外部生は飲み物を持ってくるのは当たり前となっているので、学園が用意しているという発想すらない。


「他にも、毎年、弁当の用意を食堂に依頼していたんだけど、それも抜けていた。それは事前に、食堂の方からどうなってるんだと話があったおかげで何とかなったんだけれどね」


そう言えば去年も今年も、体育祭は弁当を持参してくるなと面白い指示があったなと思い返す。至れりつくせりだ。


「あとは、使用しない教室棟を締め切るのを忘れてしまったから、サボっている生徒が入り込んでしまったり、毎年恒例の校内見回りとかで人手が圧倒的に不足している」

「ああ、だから生徒会役員は書記役だけが本部に留まっているんだね。他の人達は出ずっぱりで動いているんだよね?」


ぴしり、と空気が凍るのを感じた。






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