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モテるあいつをどうにかしてくれ
4-4

かつ、かつ、と嫌味なほど綺麗に足音を響かせてこちらに近づいて来る。


「もう一度言う。予鈴は既に鳴った。早く教室に戻るんだな」


ぐい、と眼鏡を釣り上げる。

その後ろには、顔を青くした蘭ちゃんの姿があった。


「蘭ちゃん!」


駆け寄り、肩を抱くと、心なしか身体も冷え切っているように感じた。


「お前、蘭ちゃんに何したんだよ」

「――っ! 初春様は関係ない!」

「そうだ、俺は関係ない。瀬戸口も、関係のないことだ。関係するな」


釘を刺すように告げると、書記役は何事もなかったように悠々とした足取りで普通教室棟の方へと歩いて行った。その後を追うように、長身の影が歩いて来る。


「………あれは、口は悪いが、お前達のことを心配してのことだ。気にすることはない」


190cm近い体躯の、小浜田立秋(おはまだ・たてあき)庶務役だった。

常に書記役の後ろをついてあるく彼は、今も例にもれず、書記役の後を静かに追った。おれ達にすれ違う際、蘭ちゃんを慰めるように肩を叩き、おれには小声で「落ちついた頃に瀬戸口から詳しい話を聞け」とフォローを入れる辺りから、彼の常識人としての一片を見受けることができる。

蘭ちゃんは、庶務役に叩かれた肩にそっと触れ、2人の姿を見送ってから、意を決したように口を開いた。


「昼休みに、会長様の親衛隊長と話したんだ」


やはり、蘭ちゃんは既に動いていた。親衛隊長と、ということは隊長同士、1対1で話していたのだろう。親衛隊全員の会合の中に1人で乗り込んだのではなくて良かった。


「鈴木、ゴールデンウィークに食堂へ行ったときの様子は覚えてる?」

「もちろん」

「あのときから、不安があったんだ。黒金は生徒会の皆様と同じ席に着いていた。初春様や立秋様は食堂をご利用なさらないから、ぼく達の親衛隊に影響はなかった。だけど、会長様達の親衛隊は、ずっとあの光景を見ているんだ。彼らがいら立っているのは見えたんだ。あのまま放って置けば、何処かの親衛隊が必ず制裁をする」

「だから、親衛隊長と話をしたの?」

「そう。話をつけようと思ったら、総隊長も兼ねている、会長様の親衛隊長と話すのが早いから」


こくり、と蘭ちゃんは頷く。


「黒金は、正直、あまり好感は持てない。それでも制裁を受けるのはおかしい――いや、制裁自体がおかしいんだ。だから、まだ様子を見て欲しいって言ったんだ。そしたら、様子を見たところで何が変わると言われて、ぼくは答えることができなかった。ぼくには、状況を変えるだけの案はなかったんだ」


再び蘭ちゃんは顔を青ざめさせた。


「そこで、初春様が来られたんだ。何してる、間もなく始業だと仰って、ぼく達を解散させたんだ。総隊長は初春様に会釈だけして1人で去って、ぼくは――お叱りを受けた。何を勝手にしている、勝手なことをするな、と」


蘭ちゃんがそのような口調で叱られたのは初めてなのだろう。衝撃が大きかったらしい。


「大丈夫だよ、蘭ちゃん。庶務役の言ったように、書記役は口が悪くて、言葉足らずなだけだから。蘭ちゃんが危ない目に遭うのを心配して言ったんだよ。もう、授業も始ってるし、行こう?」


初春様のことを悪く言うな、と言われながら、蘭ちゃんの手を引いて教室へ戻った。

道中で、一件のメールを着信していた。

内容は――お前が、王道総受けを阻止しなさいという、王道総受け好き腐男子であるおれにとって鬼のような指令だった。





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