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モテるあいつをどうにかしてくれ
3-2

頂きます、と蘭ちゃんと2人で手を合わせて食べ始めるのは、同室での生活が始まってからの新たな習慣だ。食べ始めてから、気になっていたことを訊ねてみた。


「ところで、どうして蘭ちゃんもここでご飯を食べる気になったの?」


おれのように腐っている訳ではないから、萌えを供給しに来たのではないだろう。唐突にカツ丼が食べたくなったのでもないはずだ。このくらいなら、作ろうと思えばいくらでも作れるはずなのだ、蘭ちゃんであれば。


「別に。気になることがあったから」


やはり、料理目的ではないようだ。では何が目的なのか。ここでなければ見られないものなのではないだろうか。おれと目的こそ違えど、見ようとしているのは同じものなのではないだろうか。


「蘭ちゃん、もしかして――、」

「しっ、皆様が入られる」


言われて、すぐに出入り口に視線を移す。食堂にいる他の生徒達も気配に気付いたらしく、先ほどまでの喧騒が嘘のように静かになった。

食堂の壁はガラス張りとなっているため、廊下の様子を見ることができる。廊下から、食堂出入り口へと足を運んで来る生徒会役員たちの姿を視認した。現在の生徒会役員の数は会長さん、副会長さん、会計さん、書記役、庶務役の5名で構成されている。しかし、今、あるのは4名の人影だ。1名足りない。書記役と庶務役は常に2人で行動することで有名であり、校内公認カップルとして名を馳せている。そして彼らは2名とも、食堂で食事をしないことでもまた、有名であった。書記役が庶務役の分も含めた2名分の食事を作っているのではないかと噂されている。そのため、本来ならばここに現れるべき人影の数は3名のみであるはずなのだ。2人が破局し、どちらかが食堂で食事をすることになったのか、あるいは2人はここには来ておらず、1名多い構成で来ているのか。

予想はついていた。そして、その予想は的中していた。


「お! 今日は洋食の日なんだな! 何食べよっかなー!」


食堂が静まり返っていることなど気にもせず、つい先日聞いたばかりの、明るい声が響く。書記役と庶務役の姿はない。

黒金くんだ。

黒金くんが、会長さんと副会長さん、会計さんを伴って来たのだ。

以前、食堂へ訪れたときは、生徒会役員が入って来ただけで、割れんばかりの歓声が上がっていた。おれにとっては初めての登場シーンでも、君らにとっては毎日の出来事だろう、と萌えをそっちのけで思わず呟いてしまったほどの喜びようだった。それなのに、今はどうだ。歓声どころか、誰一人として声を漏らさない。ほとんどの生徒達が刺すような鋭い視線で、彼らを睨んでいる。いや、睨んでいる相手は彼らではない。彼だ。


「よっし、今日はオムライスにしよっと! 名智は? 何にする?」


自分が睨まれているのか分かっているのか、いないのか、黒金くんの声は尚も明るい。これで、自分に向けられている痛いほどの悪意に気付いているのであれば、彼は相当な役者だ。

彼は会長さんと、残りの2人の希望も聞くと、代わりにまとめて注文してしまう。ご機嫌だった。この後に食べる予定のオムライスのことしか考えていないかのようだった。

注文していた品を受け取った後も、彼は生徒会役員と共に動いていた。そして、そのまま、専用席の方へと行ってしまう。彼がそこへ行くことに対して、生徒会役員達は何も言わない。生徒会役員以外の人間が、下手に生徒会役員達と関わりを持ってしまうと、その人に対して、周囲が嫉妬してしまう。それを防止するためと周囲からの視線を妨げるために、間仕切り壁の奥を専用席としているはずなのだ。それなのに、生徒会と全く無関係であるはずの、つい先日編入してきたばかりの生徒がそこへ行ってしまうのは、周囲の生徒達にとっては決して面白くない状況だろう。

生徒会専用席のすぐ近くには、金持ちクラスの中の、特に親衛隊の者達が多く集まる席がある。ふと、そちらの方へ視線を移してみた。

案の定、全員が苦虫を噛み潰したような表情している。何事が小声で話し合っているようだが、さすがにここまでは聞こえない。その中でも特に、嫌悪の表情を露わにしている人がいた。


「あれは、確か――、」

「会長様の親衛隊長だよ。そして生徒会親衛隊の総隊長でもある」


蘭ちゃんも同じところを見ていたらしい。おれの独り言に応えるように囁いた。

食事を終え、自室に戻るまでの道中で、蘭ちゃんは意を決したようにおれに告げた。


「鈴木、今日でゴールデンウィークは終わりだよね。明日はぼくは行くところがあるから、一人で弁当を食べてて。弁当はちゃんと作るから」


うん、分かったよ。

蘭ちゃんが何をしようとしているか、想像はついたが、おれにはそれしか言うことはできなかった。





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