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モテるあいつをどうにかしてくれ
3-1

ゴールデンウィーク中、蘭ちゃんは宣言通り、寮に引きこもって過ごした。恐らく、当初の予定と多少異なる引きこもり方であったが。宣言したときは寮の自室から一歩も出ない、というニュアンスを含んでいたが、実際には自室からは出て過ごした。主におれに付き合う――あるいは見張る――形であったけれど。

王道編入生が来ているのだ。重要なイベントのほとんどを見逃してしまったからと言って、それをそのまま無視し続けることはできない。可能な限り回収するしかないだろう。

ゴールデンウィークの最終日ではあったが、寮の食堂を利用してみた。外食で高価な食事を取っているような気分になった。おれが行った夕食はもっとも混雑しやすい時間帯だ。朝や昼であれば、休日時であっても学園内にあるカフェテリアを利用することもできる。夕食時のみ、寮の食堂のみの利用と限定されているためだ。

朝や昼では、生徒会役員一同と黒金くんがどちらを利用しているか分からない。そのため、確実に同じところを利用しているであろう夕食時を狙ったのだ。食事を外で摂るということは、その分蘭ちゃんの手料理を頂くことができないということなのだ。これは手痛い損失だ。

萌えを供給する目的だったので、おれ1人で行こうとしたが、理由を話したら蘭ちゃんも同行すると言い、一緒に食堂へ行った。おれの理由に共感したのではないだろう。一緒に行くと言ったときの表情はやはり、あの、苦しげなものだった。


「やっぱり、食堂は混んでるね」

「だろうね、皆、自炊なんてしないんだから」


ここに初めて来たのは1年前だ。入学したばかりの頃、一度だけ、同じように夕食時に食堂を利用したことがあった。全寮制学園に入学したからには、食堂の様子を見ておかねば損だろうと考えたためだ。そのときのメンバーとそっくり同じ人間達が在学し続けているはずはないのに、混雑具合に変化はないのが、面白いものだ。

内装自体は高級レストラン仕様になっているのに、注文方法は食券販売機を利用したものになっているというミスマッチ具合がいい味を出している。何故そこだけ食堂の風を真似たのだ。人件費の削減なのだろうか。レストラン式の注文方法にするか、食堂風の内装にするか、どちらかに統一させて欲しい。高級レストラン仕様になって、料理の値段が書いていないメニューが置かれて困るのはおれなのだけれど。

食券販売機でおれが選んだのは焼魚定食だった。日替わりで和食中心か、洋食中心か、中華中心かの料理でメニューが変わって行く。今日は洋食中心の日だったらしい。和食メニューは、焼魚定食とカツ丼しかなかった。横目で蘭ちゃんの選んだものを見ると、カツ丼の食券が右手に取られていた。蘭ちゃんも和食気分だったか。お昼はパスタを食べたもんね。気が合ったようで少し嬉しい。しかしこの子、おれより小柄なのに、おれより重いもの食べてる。可愛い。


「いらっしゃいませー。食券をお預かりします」


食堂の食券預かり口にいるのは、綺麗な顔をした若い男性だ。この人は噂によるとほぼ毎日いるらしいので、アルバイトではなく、従業員なのだろう。容姿の良さと物腰の良さに、密かなファンがいるらしい。親衛隊ができるほどではないが、外部の人間でそれほどの人気が出るのは珍しいことだ。

男性に食券を渡し、横に移動すると、間もなく料理が出てくる。多少は作り置きがあるのだろうが、まだ温かい。

おれと蘭ちゃんは、最も入口に近い席を取った。


皆、毎日利用しているせいが、この広い食堂には暗黙の了解の下、席割が存在していた。最も料理受け渡し口に近い、奥側の席は金持ちクラスの席。出入口側の席は不良クラス。毎日利用することのない庶民達は出入り口のすぐ手前の席、となっている。そして、生徒会役員達は、最も奥にある、間仕切り壁の更に奥の席となっている。外から生徒会役員の食事姿が見えない様な構造になっているのが、なんだか嫌味っぽい、と言われているとかいないとか。




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