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モテるあいつをどうにかしてくれ
2-3

彼が編入生であるのは間違いない。そうでなければ不自然な点が多いからだ。しかし、編入生であるにしても不自然な点は多い。どういうことなのだ。

おれの疑問に応えるかのように蘭ちゃんが呟いた。


「あれが、噂の、黒金真弥(くろがね・しんや)――?」


どういうことだ。


「噂? 噂ってどういうこと? 今の子、噂になるほど有名なの?」


言っては何だが、おれの情報網は結構広い。萌えを探索する内に、広がって行ったのだ。その情報網にも編入生の情報は流れて来なかった。だからこそ、今日初めて編入したばかりの子だと思ったのだ。


「最近、生徒会役員の皆様にひっついて回っている奴がいるって話。名前は黒金真弥。4月の中旬に編入してきたんだよ。対して頭も顔もよくない癖に、家柄が良いらしくてA組に配属されているらしい。それで、親衛隊の皆が今、騒いでるの」

「え? 4月の中旬? 中旬ておれ、そのとき何してたっけ」

「あんたのことなんて知らないよ」

「あ、わかった。4月の頭に蘭ちゃんと同室者になって、中旬に蘭ちゃんが弁当を作ってくれるようになったから、折角ならと蘭ちゃんと一緒に食べるためにE組に挑んでいた頃だ。スキップで隣の教室に行ったのにドアを開けてすぐに黒板消しが吹っ飛んできたときは驚いたなあ。黒板消し、教科書、定規と色々飛んできたんだよね。一番危なかったのは定規かな。目に刺さるかと思った。でも、カッターとかハサミとかを投げて来ない辺り、皆良い子だよね。あのとき、丁度、長道くんがクラスメイト達と喧嘩してたんだよね。それを掻い潜って、蘭ちゃんを探したけどいなくって。探している内に標的が長道くんからおれに替わったときは困ったなあ。長道くんまでおれの方に攻撃し始めたんだもの。おまけに蘭ちゃんはお手洗いに行ってて教室にいなかったし。蘭ちゃんが戻って来た途端に投げるのを止めたのが面白かったなあ。教室が荒れ果ててるからすぐにバレて、蘭ちゃんにお説教されてたけど。その日はそのまま嫌がる蘭ちゃんと無理やりお昼を一緒にできたんだけど、それ以降、おれの回避能力を面白がった皆がおれに何かを投げて出迎えるようになったのには困ったよ。それから物を投げないように説得するのには骨が折れたなあ。4月の中旬頃と言えば、彼らの説得を頑張っていた頃だったから、見逃していた情報だったのかな」

「その件はぼくの監督行き届きで申し訳なかったと思っているから、もっと簡潔に言って」

「編入生が来てたなんて初耳でした」


あの頃は、萌えより、いかにして彼らの投擲行動を止めるかに頭を悩ませていたので、彼らの情報収集に専念していた。そのため、萌えは後回しになっていたのだ。目の前に長道くんと蘭ちゃんの、忠犬×美少年があったから敢えて探さなくても良かったという理由もあったけれど。それにしても、そんな萌え情報があったなら、もっと早くに、誰かがおれに教えてくれても良かったのではないだろうか。

編入生が来たのが、4月中旬で、今は5月のゴールデンウィーク。そして、編入生くんは既に、会長さんら、生徒会役員達と仲良くなっている様子。

ということは、まさか。まさかとは思うが。イベントは既にかなり進行している?


「まさか、とは思うんだけど、副会長さんが編入生くんを出迎えて、そのときから副会長さんは編入生くんにくっついてて。食堂では編入生くんが会長さんに喧嘩を売って、そのときから会長さんも編入生くんにくっついてて。なんてことになってた?」

「なんだ、あんたもある程度は知ってるんだね。編入生が来てたことは知らなかったみたいなのに、どうして?」


既に、王道物語はかなり進行していたようです。





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