モテるあいつをどうにかしてくれ 1-4 「それなら、買い物とかはどうだ?」 「何買うの?」 「服とか?」 ショッピングか。今までよりはかなりハードルが下がった。これなら流石に了承してくれるんじゃないだろうか。 長道くんもそう考えているのか、期待に満ちた目で蘭ちゃんを見ている。蘭ちゃんは、うーん、と軽く唸る。 「いや、いいよ。それなら鈴木とこの前行ったし」 え。 「ね、行ったよね、ゴールデンウィークの初日に」 えええ? 「申請出して、外の店に。ね?」 ええええええ? 確かにゴールデンウィークの初日には、今日のように蘭ちゃんと2人で外の店に行った。 この学園では、学園外に行けるのは緊急時を除けば土日祝日の学園が休みの日のみで、事前の申請が必要となる。蘭ちゃんは、ゴールデンウィーク中は可能な限り外へ出ないで引きこもりたいと言った――このとき、おれも全く同じことを考えていたよ、類友ってやつかな、と言ったら殴られた。何故だ――ので、その間に暇をしないように外へDVDを借りに行ったのだ。サスペンス2本、コメディ1本とホラー2本を借りて、すぐに寮へ戻った。服どころか、食料品も買っていなかったのだ。ちなみに蘭ちゃんは、サスペンスは推理をしながら、コメディは真顔で、ホラーは爆笑しながら観ていた。コメディとホラーのリアクションが逆だと思うと言ったらまた殴られた、何故だ。痛くなかったし、可愛かったから許す。 殴られた覚えしかないおれに、話を合わせろとばかりに睨んでくる蘭ちゃん。 いや、いいんだけどね。蘭ちゃんの頼みとあればいくらでも話は合わせるし、嘘も吐く。でもね、今は長道くんからの睨みも相当きついものになっているんだよね。こちらの眼光も中々に痛い。 「うん、行って来たよね」 どちらをとるかで悩むほどではないけれど。蘭ちゃんはもう少し長道くんの方も見てやってはどうなのだろうか。 悲しいかな、おれが当て馬のようになってしまっている。どうせ当て馬役が必要なら、おれよりもっと適任のイケメンが何処かにいるだろう。おれのような平凡が三角関係に絡んでいても全く美味しくない。 しかし、蘭ちゃんの様子には少し不自然だった。 ただの同室者であるおれのことも、鬱陶しく思いつつも付き合いよく会話を続けてくれたり、買い物に付き合ってくれたりしているのだから、より長い付き合いである長道くんの誘いにはすぐにいい返事をしそうなものだけれど。 首を傾げるおれのことをあっさりと無視し、蘭ちゃんは長道くんに向き直る。 「そういう訳だから、ごめんね、領介。また今度ね」 「お、おう! また今度な!」 どう考えても社交辞令のその言葉に、うんうんと頷くと、長道くんはぱっと顔を輝かせた。 思っていた以上に単純なようだった。それでいいのか、長道くん。このままでは恐らく君の言う『今度』は永劫に来ることはないぞ。もっと別のアプローチを考える必要があるのではないだろうか。どんなアプローチがいいのか、腐男子であっても恋愛マスターではないおれにはさっぱり見当もつかないけれど。 「ほら、行こう、鈴木」 「うん。またね、長道くん」 「てめーとはもう二度と会わなくていい。教室にも来るな」 最初から最後まで酷い長道くんでした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |