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天条院沙姫誘拐事件<シリアス>




ある晴れた日の事。
魔法以上の愉快などはないが、沙姫は珍しくひとりで散歩がしたくなり見慣れたこの町を歩いていた。

(たまにはこうやって、ひとりで外出というのも悪くありませんわ)

……しかし、実は沙姫はひとりではなかった。

ひょこっ

「沙姫様になにか悪いことが振りかからないようにするのが私達の務め。」
「沙姫様には悪いですけど……こうやって遠くから見守らなくちゃ駄目ですよね。」

凜と綾が、沙姫の後ろでしっかりと見守っていた。
沙姫は有名な天条院グループの娘、誘拐などの不幸にいつ巻き込まれてもおかしくない。
……それに沙姫ほどの美しい娘なら、金など関係無しに拉致を図ろうとする輩が現れるかもしれない。

こんな晴れたいい日にそんな事件が起こるなんて考えたくはないが……用心することは大切である。


そのころ……
宇宙では怪しい影が地球の、リト達のいる町を見下ろしていた。

「ザスティン……おまえがここにいることなど御見通しだ…」

くくく…と怪しく笑いながら、異星人はザスティンが沙姫と一緒に写った写真を取り出す。
「これを利用して、おまえを………くくくくく……」

不穏な空気が、周りを包みこんだ。



「くしゅんっ」
「あっ沙姫様がくしゃみをなされた!」
「風邪だろうか、帰ったらすぐ薬を渡さなくては。」
「誰かが私の噂をしているのね。もしかしたら……ザスティン様かしらっ」

きゃっと道端で乙女モードに入る沙姫。
そんなあやしげな沙姫に、更に怪しい男が近付く。

「やはり、ザスティンに繋がっているんだな。」
「えっだっ、だれですのっ?」

困惑する沙姫を見て、凜と綾は身構える。
怪しい行動をしたらすぐに攻撃出来るようにするためだ。

「俺はザスティンの……そうだな、友達ってところだな。」
「まあっ、ザスティン様のご友人ですのねっ!」

ザスティンの名前を聞いて安心した沙姫は、再び乙女モードになって警戒を解く。

「君はザスティンの恋人なの?」

さりげなく男は沙姫の近くに寄って、そう聞いた。
沙姫は照れながら、ええ、と答える。

「ふーん……」

そのあと惚気る沙姫をみて、男はにこにこと笑う。
しかし、一瞬、本当に一瞬殺気を見せて、


「じゃあ、君をさらったらあいつは来るかな?」
「え………うっ!」

トンッ、と沙姫の首の後ろを手刀で叩く。
力なく崩れ落ちる沙姫を、男は片手で抱いた。

なにかがおかしいと察知した凜と綾は、ようやくその姿を現す。

「貴様!なにをやっている!」
「沙姫様からはなれなさい!」
「………雑魚に用はない。」







「おまえっ!どうやったら卵がこんな奇怪な色になるんだよっ!」
「え〜、私、普通に料理しただけだよ〜?」
「おまえの普通はどんなんだっ!」

いつものように漫才を繰り広げるチャイムが鳴り響く。

「は〜い……ってうわああっ!?」

ぼろぼろの、下着が見えてしまっている服を纏った少女が二人、倒れ込みながらドアの前に立っていた。
……よくみると、身体もかなり傷付いている。

「あの、大丈夫ですかっ!」
「沙姫様…が……」

聞き覚えのある声な気がして、リトはよーく顔を見てみる。

「凜先輩!それに綾先輩も!?」
「沙姫様が…誘拐されてしまいました………」
「地球の人間とは思えない力と早さで、私達ではそれをくい止めることが出来なかった……」

とりあえず中へ入って下さいと言い、リトは綾を、ララは凜を支える。
ここでリトたちは、沙姫が誘拐されたことを理解した。

「ララ様ー、んっ、一体どうなされたのです!?」

ザスティンもちょうどやってきたので、事情を説明する。
沙姫が誘拐されたと聞いて、ザスティンは顔を真っ青にした。

「そんな……すぐに救出に向かわねば!しかし、場所がわからないことには……」

慌てふためくザスティンをとりあえずスルーしておいて、リトは傷付いた二人をなんとなく見る。

「ん、なんだこれ。」

凜の背中についた怪しい物体を触る、すると、

「あがががががっ」

電撃が身体を渡り、リトは倒れた。
そしあと、その物体から小さなスクリーンが現れて、ある映像が映し出される。

「沙姫さん!」

その映像には、怪しい触手で拘束された沙姫が映し出されていた。

「やあザスティン、ひさしぶり。」

缶ジュースを飲みながら、陽気にあの男も登場する。

「おまえはっ……昔、ララ様を拐わかそうとして私にボコボコにされた……!」
「ああ、今でもあの屈辱は忘れないぜ……」

怒りを露にし、持っていた缶を片手でグチャグチャに握りつぶす。

「だから、今日はそのお返しをしてやろうとわざわざ来てやったぜ。おっと、逃げるなよ?」

くいっと恐怖で顔を引きつらせる沙姫の顎を持つ。

「来なかったらこのお嬢さん……キズモノになっちゃうかもねぇ〜」
「ザスティン様っ」

涙を瞳にためて、沙姫は叫ぶ。

「来てはいけません!私は大丈夫です、だから……」
「う〜ん、美しき愛ってやつかな、こんな健気な彼女のためにも来いよ、絶対に。」

男は場所を言ってから、じゃあねとふざけた風に言って映像を終わらせた。



「……ザスティン」
「私のせいで……くっ…すぐに向かいます、沙姫さん!」
「ザスティン、私達も一緒に行くね!」
「じゃああたしは、この二人の手当てをしとくよ。」

美柑が、救急箱を持ちながら言う。
ザスティン達はこくりと頷き、男が指定した場所へ向かった。



「沙姫さん!」
「やあ、やっぱり来てくれたね。」
「……ザスティン…さま……駄目ですわ…」
沙姫は恐怖と長時間同じ体勢で拘束されている疲れでかなり衰弱していた。

「さあ、来たぞ。沙姫さんを離せ!」
「おっと、勘違いしてもらっちゃ困る。俺はおまえともう一度戦いたいわけ!だから、おまえがボコボコにされたら、このお嬢様を解放してやるよ。」

そう言って、男は剣を抜く。

「戦いは正々堂々、で行こうな。」
「おい、ザスティン助けなくていいのか!?」

ララとリトはヒソヒソと話をする。

「大丈夫だよ、だってザスティンは………」
「よし……死ね、ザスティン!」

ザスティンは鋭い眼光で、剣を振りかざす男を睨む。

ガキィンッ!

勝負は一瞬だった。
男の剣はザスティンの素早い剣さばきに耐えられずに弾き飛ばされる。

剣を男の服が壁から離れなくなるくらいに深く刺してから、ザスティンは沙姫を拘束している触手を取り外して、沙姫を解放した。

「……ザスティン様、来てはいけないと……」

言いかけの沙姫を、ザスティンは力強く抱き締める。

「私のせいで、貴女を危険な目に合わせてしまいました。……すみません。」
「ザスティン様…お気になさらないで……だって、ザスティン様はこうして助けてくださったのですから……」

きゅっ、と沙姫も抱き締めかえす。
それから、二人は見つめあう。

「沙姫さん……」
「ザスティン様……」



「……えーっと…、俺達邪魔みたい……だな。」

リトの言葉に二人ははっとして顔を紅くする。

「とりあえず、こいつは私がパパに言って厳しくおしおきしてもらうねっ」

宇宙最強の王の娘は、ズルズルと男を引きずりながら、携帯で父親に電話をはじめた。


こうして、天条院沙姫誘拐事件は幕を下ろしたのである。



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デビルーク王室親衛隊長という設定を頑張って使ってみました!
ザスティンはすっかりヘタレキャラというのが定着していますが、隊長になるくらいなんだから、シリアスならめちゃくちゃ強いんだろなぁ〜…とか思いながら書きました笑

ところで、原作はいつになったらあの二人はくっつくんでしょうか?


あきゅろす。
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