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1、早咲きの桜(四)






「幸村!よく食べ、よく鍛えるのだ!!」



「はいっ!お館様!!」





さっきまでの負のオーラはどこへやら。

そう思いながらもいつもの調子で食卓にむかう幸村に、佐助は苦笑した。

春休みの夕飯当番である佐助が炊いたご飯は見る見る内になくなっていく。

隙を見て自分の分を確保する佐助を隣で見ながら、慶次は零れる笑みを抑えられず口元を手で覆っていた。





「どうかした?人の苦労は蜜の味、ってか?」



「違う違う…っ……いや、二人ともやっぱ変わんねぇなぁ。」





その言葉にも気付かずに、二人は白米を競い合うように掻っ込み続けていた。

慶次は武田家でこうして食卓を共にするのは実に五年ぶり。

義父母の利家とまつが新婚旅行に行き家を空けたとき以来である。

小学5年生が食べるには多すぎる飯を掻っ込んでいた幸村の顔は、今も変わっていない。

懐かしそうに目を細める慶次につられ、佐助の口元にも笑みが浮かんでいた。





「へぇー……意外だね。」



「そうかい?」



「確かにいつもあの二人は暑苦しいけどさ、夕飯まで騒ぐのは俺初めて見たぜ?」





会話の代わりに雄叫びが上がりだした二人からやや顔を遠ざけ佐助は言う。

それこそ意外とでも言うかのように、慶次は目を丸くした。

それを感じ取ったのか、頬に飛んできた米粒を拭き取りながら佐助は複雑そうな表情を浮かべる。





「………旦那も高校行ったら寮入っちゃうし、信玄さんは一人になっちゃうからな…淋しいのかもね。」



「!」





信玄の奥さんが病死していたことを思い出し、慶次はハッとした。

慶次や幸村が春から通う高校は近場ではあるものの寮制。
二人より一つ年上の佐助も、そこに通っている。

信玄自ら知り合いが居るために推した高校ではあるものの、やはり我が子のような存在である二人がいなくなるのは淋しいのだろう。

まだ入学まで時間があるとは言え、淋しさ故に空騒ぎしていると思えばそれは本当に二人らしくて、慶次は微笑ましく二人を見る。

また、米粒が飛んだ。





「お館様ぁああ!!」



「幸むるぁああ!!」



「……どーせ休日は帰ってくるんだろうけどね。」



「同感だな。」





顔に付着したそれを拭き取り、二人は肩を竦めた。





「ぉお館さむぁああああ!!」



「幸むるぅぁああああ゙!!」



「はいはいストップストップ!さすがにそんなに叫んだら近所迷惑だって!;」





慌てる佐助を横目に見つつこれから入学までこれが続くのだろうと想像すれば、

さすがに慶次も、嫌そうな顔をしながら佐助を痛み入ることしかできなかった。











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