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1、早咲きの桜(三)





「不覚……!再び負けようとは……」



「そうくよくよすんなって、前回は引き分け寸前だったろ?」



「その前も慶次殿の勝ちでござる。」



「………………;」





己れが腑甲斐ないばかりに…!!と今にも悔し涙を零しそうな震える幸村の背中を見つめ、慶次は防具を磨きながら苦笑した。

結局あの後対戦は通常の試合の二、三倍長く続き、一瞬集中を削がれた幸村の脇に一太刀入れた慶次の勝ち。

よほど悔しかったのか、他の門下生達が帰っても幸村にその場を発つ様子はなく、ただ慶次に背を向け座り込むのみだった。

おかげさまで、それに付き合い道場に残り磨き続けた慶次の防具は一段と輝きを増していた。





「そんな落ち込まなくても次があるだろう?」



「戦場では次はありませぬ…。」





いや、今平成なんだけど。

時代錯誤を起こしかけている友人に、慶次は頭を抱える。

未だ背を丸め床に視線を落とす幸村をどうしたものかと考えてはみるものの、掛ける言葉も見つからない。

下手に声をかければ「情け無用!」と相手の怒りを買いかねない。

うなり声をあげて悩んでいると、足音が耳に入り慶次は振り返った。





「旦那ー、ご飯……って言う気分じゃなさそうだね。」





道場の戸を開いた瞬間に漂ってきた負のオーラに、佐助は苦笑しその発生源を見、慶次を見る。

困り果てていた慶次は佐助の出現に内心ホッとしながらも肩を竦めた。





「はは……;悪いね佐助;」



「いいっていいって、何となく理由も想像つくし。」




旦那ー、飯だってばー。とベシベシ幸村の頭を叩く佐助に、慶次は苦笑しながらその光景を見つめる。

佐助も幸村と同じ居候の身なのだが、幸村より後に武田家に入ったため、自ら幸村を旦那と呼んでいる。

初めて佐助に会いそれを知ったとき、慶次がどれだけ驚き、耳を疑ったことか。

幸村然り、やはり面白い家だなぁと感心すれば、自然に笑みが零れてきた。

これも居候二人を抱えるあの信玄の人柄故のものなのだろう。

しかし、幸村は相変わらず道場の真ん中で体育座りをして、顔を上げる様子さえ見えなかった。





「佐助……俺は未だ鍛練が足りぬのだ、飯よりも修業を」



「じゃあ慶次は俺様が連れてっちゃうよ?」





ぴくり。



佐助の言葉に、幸村が顔を上げた。





「え…ぁ……え?;」



「なーにボンヤリしてんのさ、ホラ行くよー。」



「ちょっ、俺早く帰らねぇとまつ姉ちゃんが!;」



「たまにはいいじゃない。入学祝いにご馳走するよー?」



「…………………」





有無を言わさず慶次の腕を引いて立たせその背中を押して佐助は道場から出ていってしまう。

しばらくその様子を呆けたまま見送っていた幸村は、数秒たってようやく立ち上がり、その後を追った。





「やっぱりねぇ…。」



「?」





家の玄関先でその足音を聞き、佐助はしてやったりと笑った。










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