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1、早咲きの桜(二)




バシィッ!!




夕刻。
竹刀のぶつかり合う乾いた音が響くそこは、武田家に代々引き継がれてきた由緒正しい剣道場であった。

師範であり幸村の養父に値する武田信玄は、その勝負の成り行きを目を凝らして見つめている。

ちなみに、養父といってもそれほど聞いてはいけない事情があるわけでもなく、唯単に幸村の父母が海外旅行が好きで、英語の苦手な幸村がそれに着いていくのは無理だと言い張ったのだ。

最後に二人が旅立ったのは一年前。

向こうで職を手に付けてしまいしばらく帰らないと連絡を貰った時さえ、幸村は気にしている様子はなかった。

それほど、預けられたこの武田の家が気に入っているのだ。





「うおぉぉおっ!!」



「うわ゙っ!?」





バシィンッ!!





「一本、そこまで!!……幸村、まだ形が甘い。気迫だけでは生き残ることはできぬぞ!!」



「はいっ!お館様!!」





まだ春と言うには早い夜の肌寒さにも負けじと暑苦しい空気をまとう熱血師弟に、それを見ていた門下生も、倒れたままの幸村の対戦相手も、皆苦笑いを浮かべていた。

一番長くこのやりとりを見てきた、慶次でさえも。





「二人とも元気だよなぁ……幸村!まだ体力あんなら一戦どうだい?」



「!、はい!ぜひお願い致す!!」





先程よりでかくなった気がしなくもない幸村の快活な返事に、古座をかいていた足を崩して慶次は立ち上がり、竹刀を握った。

信玄は久々の愛弟子達の対戦に血が騒いでいるのか、笑みとは呼びにくい、どこか迫力がある愉しげな表情を浮かべる。(因みに、お館様というのは大河ドラマに影響された幸村が勝手に呼んでいるだけのものである。)

門下生達も騒ぎだした。

それもそのはず。
幸村・慶次、それからもう一人時たまふらりと現れる三人の門下生は、大人達を凌いで武田道場内で最も強く、その実力は全国区なのだ。

冬の中学選抜に参加した慶次と幸村は見事に1、2フィニッシュを決め、その実力を認められ、協会から若手剣士としてスカウトまで受けている。

しかし二人はその申し出をあっさりと断った。なんでも、

『某、お館様以外の師事を仰ぐつもりはございませぬ。』

『俺も。そう言う面倒そうなの嫌いだし、武田のおっさんのとこのほうが楽しそうだからね。』

……だそうだ。


その言葉を聞いた信玄がどれほど喜び、どれほど咆哮を上げたことか……。





「お館様、審判を!」



「うむ………では、始めッ!!」









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あきゅろす。
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