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たけくらべ





幸村が慶次に連れられてきた先は、街の小さな茶屋だった。

茂みから出れば本当にすぐそこに神社の境内がお目見えし、そこが街に近いことを知った幸村は愕然とした。

石段を降りた瞬間見えたのは、城下町のように賑わう街の様子だった。

しかも、行く人行く人の会話を忍び聞いてきて分かったのだが、此処数日の修行中の咆哮は町中にもとどろいていたらしく、町人達からは

「今日は短かったな。」

とか、

「食べる獣がなくなったのかねぇ。」

などという話を、当たり前のようにしていた。

もうあそこで修業はしまいと幸村が心中で誓いを立てる中、慶次はその物憂気な顔を見つつも長椅子に腰掛けた幸村の隣に座り、団子を口に運んでいた。





「そんな落ち込むなって、誰だって間違いくらいするだろ?」



「そうは言いましてもしかし……」



「……おりゃつ!」



「ムぐっ!?;」






そんな幸村を見兼ねた慶次は、悪戯な笑みを浮かべながら最後の団子を串から引き抜くと、幸村の口に強制的に押し込んでしまった。

いきなりのことに慌てた幸村は飲み込んでしまいそうになるのを必死で堪え、しっかりと噛み砕いていく。

その様子を観察するように見つめていた慶次は、また笑っていた。





「美味しいだろ?」



「ッ………、はい、美味しゅうござ…ではなく、慶次殿!;」



「悪かったって、そんな怒んなよ。」





肩を竦めて苦笑してみせる慶次に、幸村は自分がそれほど深刻そうな顔をしていたのだと気付き、少しバツが悪そうな顔をした。

しかしその表情は、売り子が注文された団子を持ってきた瞬間に明るいものへと変わった。





「お待ち遠さま。喉に詰まらぬよう気を付けてくださいまし。」



「ありがとう。……?、慶次殿??」





いかがなされた?と尋ねてもなお、慶次は口に運ぼうとしていたのであろう団子を空中に止まらせたまま、目を丸くして幸村を見ていた。

正確には、その隣に積まれた両手の指で数えるには手が五つあっても足りないほどの串団子を、だが。





「それ……全部食べるのかい?;」



「いかにも、その通りでござる。」





それがどうかなされたか?と、幸村は不思議そうに返事を返す。

見事にその表情は“これは当然のこと”であることを語っていて、慶次は思わず疑問も何もかも消し飛んで、何も言えなくなってしまった。





「いや……なんでも、ない。」



「はぁ……?」





不思議に思っていたのは幸村も同じなようで、団子を嬉しそうに口に運びながらもチラリと慶次の隣の団子の一皿を見やる。





(あれで足りるものなのだろうか……)





普段自分は、佐助が買って来た団子や他将軍からの贈り物である饅頭を少なくとも一日に二十は食べている。

そんな自分からすれば、慶次の食そうとしている団子は随分と少なく見える。

自分よりも体格のある慶次なのに何故だろう。と、幸村はボンヤリと思った。

同時に、





(…何故某はこの方よりも……)





団子の串をくわえたまま、幸村は考え込んでしまった。









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あきゅろす。
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