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眠りに堕ちる(佐慶/シリアス甘)




頭の中の意識が、広がりながら薄れていく感じがわかる。


上げるのさえ億劫な手に、力は入らなかった。


目蓋の隙間から零れる光は段々と細くなり、そのまま消えた。


耳の感覚もなくなってくる。聞こえるのは音を立てる木々の音と、足音―――………












何処かの山中の清流の傍に、俺は立っていた。


ごつごつした大きな岩の上は思ったほど不安定ではなく、聞こえてくる川の音に耳を澄ましながら上を見上げる。


茂った木の間から零れる光は、乱反射でも起こしたみたいに至る所から洩れ、意外にも眩しいそれに、俺は思わず目の前に手をかざし、目を細める。


不意に、その指の隙間から影が葉を散らして飛んでいくのが見える。



(あいつだ。)



そう勘付いた瞬間、目の前にその相手は姿を現した。


いつもどおり音もたてずに、まるで驚かそうとしているように。


びっくりするだろと苦笑気味に笑えば、相手も同じような笑みを浮かべ、また消えた。


焦って残像を掴もうとするが……叶わなかった。


伸ばした腕は後ろから引かれ、体が反転した。


抱き締められる刹那に感じたのは、温かいそいつの体温と、胸を指す、冷たいクナイ……………。














「―――……んな、前田の旦那!…慶次!!」



「っ!………あ、れ…?」





ガバッと起き上がった瞬間、俺は聞こえた彼の声に怯えを感じながらも、ひどく優しさを含んだその声に、安堵感を覚えた。

心臓が潰れそうで、呼吸も荒く、脳が割れそうに思える。

なんども頭の中では、あの一場面が繰り返されてはまた、頭痛を重くする。





「どうしちゃったのさ、あんたがうなされるとこなんて初めて見たよ?」



「うなされてた……俺がか?」



「あれ、自覚無し?ほら、すごい汗かいてるよ??」





手ぬぐいで額に浮き出た汗を拭われ、漸く、あれが夢であったことを理解する。

思わず深く深呼吸をしながらホッとしようとしたが、震えは止まらなかった。

逆に、恐いのだ。……己を殺す佐助を夢に見るほど、自分は溺れている。依存しているのだ。



佐助に。





「……なぁ、佐助。もし…もしも俺が『殺してくれ』って言ったらあんた、どうする……?」



「……そういうことね。」





納得したように苦笑されバツが悪く思っていると、腕を引かれ抱き締められる。

感じるのは、俺より一回り小さい彼の体温だけだった。





「死んだら何もかもが終わりだ、っていつも言ってる人が何言ってんだか…。」



「っ;しょうがないだろ……俺は前田家の武将で、あんたは武田家の忍だろ?」



「らしくないね、家のこと持ち出すなんて……そんなに俺様恐かった?」





無言のうちに、俺はうなずく。
すると、宥め透かすように頭を撫でられた。





「あのね、うちの大将は敵でもない相手殺すなんてそんな無駄な殺生しません。旦那も、あんたのこと気に入ってるし。」



「………………」



「……恋してる相手を、俺様が殺す理由がある?」



「!!」





その言葉に、俺は泣きそうになる気持ちを押さえきれずに佐助の肩に顔を埋めた。

恐かったのではない、不安だったのだ。

一度、そういう人を見てきたから。

しかしそれをいとも簡単に拭い去ってしまうのだから、佐助は凄い。





「……俺は慶次を誰にも殺させないよ。」



「あぁ………っ」





次に見た夢は、彼とのひどく温かい夢だった。




END






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気付いた方もおられると思いますが、『眠りに落ちる』『眠りに墜ちる』(拍手礼文)『眠りに堕ちる』はリンク作です。お相手それぞれ違いますが(笑)
またこういう実験的なことやってみたいです♪









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あきゅろす。
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