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ノックの音で、メイは閉じていた目を開ける。
ドアの向こうから名前を呼ぶのは面倒見のいい幼馴染。
「いないのか?」と籠った声がドア越しに聞こえて、開けた目を閉じながら返事をした。
「・・・いるよ。まって、開ける・・・」
のそりと腕を伸ばし、リモコンで開閉できるように改造したドアの鍵を開ける。
久々に発した声は少し枯れていた。そう言えば口の中がパサパサしている。
その辺にペットボトル転がってなかったかな。そう思いながら右手を動かすと、連動するようにドアが開いた。
「おまえなぁ、不用心だろ。ちゃんと確かめて―――」
言いかけたクロウの声が不自然に止まる。
「おはよう、クロ兄」
うっすらと目を開けて入口のほうを見れば、青ざめた顔の幼馴染。
どうしたのだろう、と寝そべったまま観察していると、次の瞬間クロウはメイに駆け寄ってきた。
正しくは駆け寄ろうとした。けれどできなかった。
部屋の入り口からメイの寝そべる床までは、何のケーブルかもわからないコードやら、食べ終わったインスタントラーメンのカップ、パンの袋。何かの回路が描かれた紙が所狭しと散乱している。
駆け寄るどころか、避けながら歩く事も困難な程に。
それを器用にかわして、クロウはメイを抱え起こした。
「おい大丈夫か!?」
血相を変えてそう言われ、メイはふふ、と笑う。
「何が?」
「何がって・・・この部屋の有様を見たら誰だって心配するだろ! どっか具合悪ぃのかよ!?」
「・・・悪いというより、ねむい・・・」
眠いんなら布団で。そう言いかけたクロウは、これまた布団の上に散乱しているパンの袋や本の山を見て絶句した。
この部屋は一体どうなっている。
カーテンの閉められた窓からは弱い光がかろうじて差し込み、薄暗い部屋に今の時間が昼間であることを知らせている。
換気など一切されていないであろう室内では、いくつものモニターが淡く発光して何かしらの文字をびっしりと表示させていた。
中にはグラフを表示させているものもある。
床や机の上を覆い隠すようにいたる所に散乱しているごみや資料はモニターの青白い光にぼんやりとその輪郭を浮き上がらせていた。
部屋の中にそこはかとなく漂う異臭に、思わず息をするのをためらうほどだった。
事の次第を問い詰めようとメイを見れば、クロウの腕の中で穏やかな寝息をたてている。
「おい、うそだろ・・・」
安心しきったように目を閉じている彼女を、まさか放置するわけにもいかない。
しかも、こんな腐海のような場所に。
どう考えてもこんな部屋で寝ていては体調を崩してしまう。
ため息をひとつついて、クロウは小さく詫びの言葉を口にすると深い眠りの中に落ちているメイを背中におぶる。
身長の割には妙に重量が無い事に顔をしかめた。
「ちゃんと食ってんのかよ」
その問いに答える人間はいない。



あきゅろす。
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