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(福蒼)091230


蒼樹 紅 と、綺麗な漢字ばかりが並べられている名前が不愉快に感じていた。蒼い癖に、紅いとはどういうことだ。全く理解できない。どういうわけか今、その理解出来ない女の部屋に俺はいる。綺麗に片付けられた女性特有の部屋、特有の香りがいつもよそよそしくて嫌いだ。蒼樹紅という女は他の女より幾分も幾分も女らしさを存分に惹きだしているから、余計にむず痒い。
白をベースに小さな花がいくつも飾りたてているティーカップを俺の前に置いて、彼女は向かえの椅子に腰をかける。なんの会話もなく互いに茶を飲みながらぼんやりしていると、蒼樹紅のちいさい口が開いた。薄く紅がのっているその唇に注目し、バレないように目を見る。
「福田さんて、真太さんでしたよね」
大きく、くりくりとした目が疑問符を浮かべて俺を覗く。突然始まった会話がこれだ。そういえば今日、数えるほどしか会話をしていない。
「太くまじりけがない真っ直ぐ生きる。という意味でしょうか」
「……そうだけど」
「素敵です」
顔色一つ変えず恥ずかしいことを口走る。そして蒼樹紅はちいさく紅茶をすすった。
「親が願った名前の通りに福田さんは育ったんですね」
口元を緩めて、ふふ と優しげに笑う。こんなふうに笑う人間を過去に一度だけ見たことがある。それはそれは、幸せそうに。そいつは今ジャンプの看板の漫画家で、ほんのり笑う他に厭味たらしく笑う方法も覚えた彼は、同じように俺の名前を褒めていた気がする。
いつも真っ直ぐ太く生きていたわけじゃない。歳相応にひねくれたことだってある。だから名前を褒められると、すこしばかり複雑だ。
「俺は、そんなに褒められるような人間じゃねえぞ」
「どうしてですか?」
「名前こそ真っ直ぐ太くって書くけどなあ、実際そんな真っ直ぐじゃねえもん。」
「そんなことないです」
「…は」
「福田さんが真っ直ぐでないなら、嫌いなわたしの手助けなんてしないはずですから」
この馬鹿な女はなにもわかっていない。みんなが見惚れるような存在のくせに、完全な鈍感だ。
誰が嫌いなやつのために手助けなんかするかよ。俺は真っ直ぐじゃないから、そんなことしねえ。
わかってねえな本当に。なんで俺がわざわざここで上品に紅茶なんか飲んでんのか。
「ふうん。そう思ってんのか」
「?」
「ま、解釈は自由だしな」
「言ってる意味が…」
「そうだな、一言でいえば俺はお人好しじゃねえよ」

蒼く紅い、とはどういう意味だろうか。彼女はどんな意味をこめて、それを日々背負っているのだろうか。すきが薄れる前に、気づいてくれたらいいな


補色







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