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(942)100625




無に還りたい。
願ってもない舞台に放り込まれて無情。
死ねたら。なんて。
「ちょっとだけでいいんだけど、抱きしめさせてほしい。」
抱きしめるという態度が正しいのかすら曖昧な、ただあの冷え症の体を、僕の腕のなかに閉じ込めたくて。もう逃がしたくない。逃がしたくない。
「それを言って、オレが受諾するとでも?」
そんなこといいながら、喘ぐように笑う彼が、酷く浅ましくみえて。(受諾はしないだろうけど、無理矢理抱きしめられたという言い訳を用意して、君は僕に触れさせるんだろう?ずるい子だ。)
「アナタに触れられるなんて、吐き気がする。」
切れ長の真っ黒の目がキッと僕をにらんで、なにを思ったのか、枝のように細い腕を大きく広げる。吐き気がしたのはこっちだ。なにを考えているのかわからない。なんの見返りも期待していないくせに、僕のことが大嫌いなくせに、 へ ど が で る ほ ど に 。
「それは、抱きしめてもいいってこと?」
「さァ」

くるっている。奇天烈奇妙キチガイあ、あ あ、ああ
「卑怯だね、ぜんぶ僕のせいだ」
ヒヒッと笑うだけの男は決して美しいものじゃなくて、ただ言えるのは異常だということ。
枝のような腕ごとおもいっきり抱き込むと、耳元で舌打ち。

「空を仰ぐこともさせないつもりなら、こんな馬鹿みたいなお遊戯に付き合う義理なんてないんですが。」
腕を拘束されたのが気に入らなかったらしい。みるみる不機嫌になっていく声と、微かな戸惑い。彼にいま反撃の選択肢はのこされていない。
「離せ」
尖る声、縮む身体、すべてが
僕のものならよかったのに。
手にはいらない手にはいらない手にはいらない手にはいらない!

今までなんでも、僕の思った通りにことが進んできた。彼は彼だけは何故か僕の作り上げた作品ともいえる状況を覆す。それこそ、ぐちゃぐちゃに。
そんな生意気な子をどう許してあげればいい?
欺こうとしている、僕を。気を抜いたら僕を出し抜こうとしている。

閉じ込めないと。
君を閉じ込めないと僕が閉じ込められてしまうから。
「これは愛なんだろうねぇ?」
こんな安い言葉で鍵をかけようとしている。愛、なんて笑わせる。これが愛なら、世界は腐っているね。
男は愛という単語を耳にして、気が狂ったように笑いだす。
ケラケラケラと馬鹿にしたリズムで、お約束のあの声。上擦ったような、耳障りな、声 が、
まるで支配しているのは自分だというように!

「笑わせますねェ。工藤先生。本気なら変態としか思えない。自己暗示にかかってませン?まるで愛なんて言葉知らなかったみたいな口調に腹がたつ。愛なんて、アナタがもちえるはずがない。なぜなら、ヒトじゃないんですから。アナタ、キチガイでしょう?」
自棄に饒舌な男が、焦っていることに気づいたのは、彼が話しだしてすぐだった。
今回は僕の勝ちだ。
次こそ飲み込まれそうで恐ろしい。
「僕がキチガイなら、君はなんだろうね。」
余裕なんてあるわけない。
食うか食われるか、それが正しい競り合いの関係。

「僕がいとしくて仕方ないって思ってる。」

適当な嘘をはいた。
腐ったものをみる目で、四ッ谷クンは僕を罵る。
間違っているのはどこからだろう。
僕が本気で彼をあいしてることに気づかれでもしたら、(これが正しい愛の形状かどうかは別として。まねごとまがいもの上等じゃないか。これがきっと愛、だ)僕の負けだ。
骨の髄までしゃぶりとられる。
ふふ、ゴメンだよ。そんなの。
君の神経まで食い尽くすのは僕だ。


こんなのもきっと愛であってる。


あきゅろす。
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