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(夏古)091025


間違った、間違ったというたびに、何かが壊れるような音が脳の遥か遥か奥のほうで聴こえた気がした。それを聴こえないふりをして隠し通すのが俺は非常に上手だったのだ。密かに願っていたことと言えば、この些細な音を誰も気付かないでほしいことで、その小さな音を掻き消すように必死で自分を白いペンキで塗りたくることばかり考えている。笑ってくれてもいいが、俺は真っ白になりたい。

用は誰かが俺をぶっ殺してくれたらいいのだけど、それで俺が白くなれるかと言えば別のはなしで、きっと赤黒い血だけどくどくと止めどなく溢れるのだろうと思うとバケツに水をくんで流してほしい。それに溶けてしねたらいいのに、なんて 死人が2度死ねるわけがないのに自分で言った言葉の矛盾に嘲笑うように口元をあげた。
「夏目さん」
決して高くない声が鼓膜をふるわせる。夏目とは俺のことなのに、その声が全く違うだれかを呼んだように思えて、深く醜い嫉妬をする。きっと俺を愛する声で俺を呼んでくれたのだ。だけどそれが心底痛くて、なんといえばいいかわからないけれど、近い言葉でいえば

悲しい

「なあに、古市くん」
どろどろになった心臓を隠す。どくんどくんと跳ねる心臓の音が次第に早くなるのを感じた。ぎゅっと拳をにぎって上手く誤魔化そうとしたら、古市くんの手が拳になろうとしていた俺の手をそっと握る。きれいなグレーが涙にとけて落ちた気がした。
「なにも、心配ないですよ」
人の言葉を笑うばかりで、自分は本当に何もかも曖昧だと思う
彼が俺なんかのために泣くというのが凄く嫌で、涙を拭ってやりたくても手は確りと握られていて、どうしようもなくて、でも涙は見たくなくて、
綺麗なグレーがこれ以上とけたら白くなってしまうと思って、
屈んで彼の瞼にキスをした。彼の目玉の色がとけた灰色を、吸い込むように

どうしよう、俺のまわりだけいつも雨がやまない。俺は雨男なのかな。いっそ俺が融けて、溶けて、水溜まりになれたらいいのに
そしたら古市くんが俺のために泣かずに済むし、男鹿ちゃんが俺のために眉間にしわなんて寄せなくてもいい。それから神崎さんが苦虫を噛み潰したような顔をしなくたって、東条が唇を噛みながら俺を見つめなくたって、いいのに

俺は白くなりたかった。
涙にとけたグレーを飲んだから、きっと一生グレーなのだろう。
「どうか、知らないふりをして」
咄嗟に出た言葉に古市くんの涙が止まらなくなった。ああ、ああ

きっと俺は、泣かないでくれと言いたかったんだとおもう。

白になりたい





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