きみとカレイドスコープ



●○●



「ねえ魔理沙。あんたちょっと紅魔館に行って様子見てきてよ」
「なんで私が行かにゃあ行けないんだ?」
「私が行くといろいろ面倒だからよ」
「ただ面倒くさいだけだろ」



●○●



あの吸血鬼姉妹は太陽の光があると外へ出られない。(しかし日傘があれば出られるらしい)
本来なら外へ出られない朝や昼などの時間に館へ向かうのが正解だが、私が面倒くさがっている内に辺りはすっかり夜になってしまった。
霊夢はどうしてもレミリアの様子が変なのが気になっていた。
なら本人が行けばいいのにと思うが霊夢は重たい腰を動かさない。・・・重たいと言ったら怒られるだろうけど。
そこへ私が紅魔館へ行って様子を見に行ってあげるのだ。なんて親切なんだ私は。
この用が済んだら普段は隠していて出してはもらえない一級品の菓子でも出してもらおうか。
私はというといつもの黒と白の普段着に、ただの箒に跨って飛んでいるだけの格好だ。
思いの外今日は少し肌寒かった。
格好のせいで寒かったとしても、こんな中様子を見に行ってあげるのだから霊夢にそのくらいしてもらったっていいだろう。
そんなことを思いながら紅魔館に向かった。

そうだ。館についたら温かい紅茶でも出してもらおうっと。
こんなこと、あの紅霧異変の時にも同じようなこと思った気がすると考えていたら、いつの間にか見覚えのある湖まで着いた。
湖の中に全体的に紅い館が見えた。紅魔館だ。
月光を浴びて湖に映る様は余計不気味に思える。
これから起こることを物語っているかのように不気味だ。
気味の悪い館だとじろじろ見ていると、ふと、月に照らされた時計台に目が移った。
今、私は何かが通りすぎるのを見た。
月に照らされる時計台と、その月を背景に黒い影が通りすぎたのを見逃さなかった。
その影には“羽のような羽ばたく何か”が見えた。
この館で羽を持つのは恐らくレミリアか妹君以外にいないだろう。
あの影を見失ってしまう前に時計台に急ごうと、飛ぶ速さを上げるイメージで箒の柄を強く握り締めた。



●○●



時計台に着くと、夜なのに景色はとても明るかった。
夜空に浮かぶ月がとても近く見える。
こんな月明かりの中であの影を見失うことはないだろう。
私は影の主が近くにいることを信じて呼んでみた。

「おーい、誰かいるのかー?」

すると、思いがけず返事はすぐ返ってきた。

「魔理沙・・・?」
「ん?その声はもしや」

声は近くで返ってきた。
その聴こえた方へ箒を向かわせると。

「妹君じゃないか」
「どうして貴女がここに・・・」

聞き覚えがあったわけだ。
目の前にレミリアの妹、フランドールが時計台の屋根に膝を抱えて座り込んでいた。
箒から屋根へと移り、彼女の隣へ私も座った。
私を見て驚いた様だが、どこか彼女はしょんぼりしている様に見えた。
どうしたのか気になって話しかけてみた。

「こんなところにいるとレミリアに怒られるんじゃないか?」

一瞬、レミリアという言葉に表情が曇ったのを見逃さなかった。
すでに怒られてしまった後なんだろうと私は悟った。
初めて会った時に見せた持ち前の明るさは、今どこにも窺えない。
彼女は全然喋ろうともしないし、このままでは何も進展がないので一方的に私が話を進める。

「今日は月が綺麗だな」
「・・・・・・」
「外へ出るのは初めてだったか?外はどうだ?」
「・・・・・・」
「私は夜はあまり好きじゃないがな。でもワクワクはするぜ」
「・・・・・・」
「みんな空を飛べるんだけど、私は箒に乗って飛ぶのがいいんだ」
「・・・・・・」

全然明るくならないなぁ。
一人で喋っている中で、どうにかしてこの子の気持ちを晴らせないかと考えていた。
こういう時、どうするといいのだろうか。
私はそういうことを考えるのが苦手だ。

「そうだなぁ・・・・・・」

一生懸命考えて出た答えはこうだ。

「ひっ―!」
「悲鳴はちょっと傷つくぜ」

考えたっていい台詞は思いつかないし、もう考えてもダメだと思い私は妹君を抱きしめた。
突然のことで驚かせてはしまったが一番これが元気付けるのにいいかなと思った。
ストレートで私らしい、まっすぐな魔法だ。

「よくないこととか失敗だとか、そんなの毎日当たり前のようにあるんだ」
「・・・・・・」
「そんなことで元気失くしてたら毎日つまらないばっかりだぜ?」
「・・・・・・でも・・・」
「ん?」
「私、お姉さまと喧嘩してしまったの。しかも咲夜まで傷つけてしまって」
「んー、そうか」
「きっとお姉さまに嫌われてしまったわ。私はもうお家には帰れない・・・っ・・・」

ぐずっと鼻を啜る音が腕の中で小さく聴こえた。
こういう時は泣けばいい、と私は小さな背中を擦った。



●○●



「そうか、やっぱり喧嘩したのか」

涙で濡れた頬を拭うのが腕の中で分かった。そして妹君は小さく頷いた。
喧嘩なんてものは日常茶飯事だからそんな思いつめることでもない、と私は言おうと思ったがやめた。
この子は純粋なんだ。
私よりも、繊細で傷つきやすい心を持っているからこんなに悩むんだ。
さて、次に考えなくちゃいけないことはこの姉妹喧嘩をどうやって解決するかだ。

「じつはな妹君。私は姉と喧嘩するのも仕方ないなーとか思ってたんだよ」
「え?」
「今日レミリアが外へ出たのは知ってるだろう?」
「知ってるわ」
「その後レミリアに会った」
「魔理沙に会いに行ってたの?」
「いいや・・・神社で会ったから、霊夢目的だと思うが」
「・・・?」

一体これから私が何を話すのか、妹君にはまだ分からないみたいで首を傾げた。
遡ること、妹君がレミリアと喧嘩をする前。
そう、レミリアは私達のところへやって来た。
彼女は“万華鏡”はないかと尋ねて来たのだ。

「レミリアは万華鏡を探しに私達のところへ来た」
「万華鏡・・・」
「その様子じゃ渡してもらったってとこか」

小さな身体がまた震えた。

「お姉様、その万華鏡をプレゼントだって・・・」
「あいつは・・・、あんたに謝りたかったんだろうな」
「・・・・・・え?」
「好きなことばっかしてたから謝りたいと言ってた。しかしあいつの性格上、素直にごめんって言えなかったんだ。多分な」
「・・・・・・」
「喧嘩すると分かってたのはそういうことさ。あいつ我儘だし素直じゃなさそうだし」

また泣き出しそうだった彼女の頭を優しく撫でる。

「まあ、なんだ・・・・・・。私があんたの傍についてるから元気だしなって」
「―うん」

いつの間にか掴んでいた私の服の裾を、妹君は握り返して頷いた。



●○●



時計台で初めて会ったときよりは元気を取り戻せた妹君を見て、私は箒に跨り宙に浮く。
続いて妹君も、月明かりに照らされて、美しい色彩を放つ羽で空へ飛び立とうとしたが私は彼女を止めた。
初めて外に出たんだからもう少し、外の世界を楽しんだっていいだろうと思ったのだ。
箒に乗ることを誘い、妹君を後ろに乗せてゆっくり空の旅に出かけた。

・・・少しだけ二人の時間を作ったって、許されるだろう。



●○●



「ねえ魔理沙」
「ん?」
「お姉様からもらった万華鏡で、この月を覗いてみたい。きっと綺麗なんでしょう?」
「ああ、綺麗だ」
「今度はこの月を、お姉様と一緒に見たい」
「そうか」
「うん」
「・・・妹君」
「なぁに?」
「キスしたい」
「!」
「と言ってみたものの、この体勢じゃできないからさ・・・だから」


また今度会おうぜ―!


大きな月の空に、まっすぐ響いた。

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