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止められないんだ、止めたくないんだ(二村様から相互没/切千)



俺が千石さんと付き合い出す前に嬉しい出来事があった。日曜日の練習試合の帰り、俺は珍しく一人で帰路に着いていた。
いつもなら丸井先輩とか同級生と一緒に喋って、若干ながら騒いでいつもの電車のホームにいるはずだったのだけれど、その日の俺は特に何の理由もなしに一人で勝手に校門を後にしていた。

そんな気紛れか虫の知らせか分からない行動は、あの人風に言えばラッキーだったんだろう。俺はなんと、あの人と同じ時間帯に同じ電車に乗り、同じ車両に乗っていたのだった。その時の俺にはもう、運命しか感じられなくて、俺は人で溢れかえっている中をあの人を求めてちょっとずつちょっとずつ進んで行った。

「千石さん!!」
「………!や、やぁ!!えっと、切原くん!!」

電車は混雑していたと言っても、そこには電車が揺れる定番の音だとかが穏やかに、緩やかに流れていたのに、俺が発した大音量の、空気を大いに震わす波はこの場にあってはならないものの様だった。
けれど、俺にはそんなことは気にしなかった。理由をいうとするならそれは簡単で、気にする必要もないと思ったからだ。

そのあと、俺と千石さんは世間話からくだらない雑談をした。たわい無いことでもこの人と一緒ならとても愉快だと思った。





「その後っすよね!いっやぁー、あれはもう、正直言ってやばかったっすねぇー!!」

俺は電話越しの千石さんに、そりゃ陽気に言った。焦りが混じった怒号の波が俺の耳に到達した。

『もう頼むからその話はしないでくれよ!だいたい何で君は恥ずかしくないんだ!!』
「大丈夫っすよぉ!どうせ俺ら以外覚えてないですって!!」
『そういう問題じゃないんだってば…。まったく…。』

千石さんは力なくそう言った。

おそらくそうなったのは照れているからなのだろうから、俺はそんな千石さんの姿を想像し思わず顔を綻ばせた。そんな様子を察せられて千石さんが突っ込みを入れてきた。

俺たちはまたそんなくだらないやり取りをしながら会話を続けた。
デジタルの音越しというのを実は互いに気にしているのだけれど、それでも遠くにいても二人を辛うじて繋げてくれる一つの手段だから、俺は便利なこの世の中に生まれて良かったな、なんて思っていたりする。

俺と千石さんを繋ぐものはまだまだあって、今 実感したのは記憶というものの存在のまたとない尊さだ。人と人を繋ぐ記憶というのは親しい人間どうしの共通の思い出だ。
そう考えると今 思い出しただけで浮き立つようなあの運命的な出来事は、どうやら俺だけのものではなく千石さんと共用しているものの様だ。


あの時だってどうしようものなかった。緊急停車をした電車は急なブレーキの力で大きく揺さぶられたかのように止まった。その時にバランスを崩した千石さんはあろうことか、俺の胸へとダイブしてきたのだ。
瞬間、俺は何が起こったのか理解していなかったが、状況を飲み込んだ時は快哉を叫んでしまいそうだった。それでもこの状態はどうするべきか、と考えていると俺は一つの違和感に気がついた。
一時の大きな揺れは収まり、事態を理解するにはもう十分な時間が経過したはずなのに、驚くべきことに千石さんはしばらく経っても俺から離れようとしなかったのだ。
これは今から考えても千石さんからの信号としか思えなかった。



これらのことから俺はいつだって満悦になってニヤけるしかなかった。有頂天にならずにいられるかよ。そう言って誰かにこのノロケを聞かせてやりたかった。
だって、結局この記憶というのは二人っきり、二人だけのものであって、何よりも俺が無条件に褒めたたえるしかない思い出を、これからも俺たちで繋ぎ続けていけるんだってよ!

こんなことを話したら、俺はまた千石さんに顔を赤くされながら怒られるんだろうが、その時 俺は、聞かなかったことにしようと思う。


揺らぎ




没と言われていましたが、もらっていいと言われたのでもらってきちゃいました\(^O^)/送ってきてもらって、ほんとすみません;;
胸にダイブが、すごくツボでマジで可愛くてほんと、萌えた^^

二村さま、ほんとにありがとうございました!


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