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Episode.02



少女に引っ張られ、着いた場所は小さな街。お店が立ち並び、そこの主たちが自分の店にお客さんが来てほしいため、「安売りだよー」や「ここでしか手にはいらないよー」などと呼び掛けている。ここは、この街の商店街のようだ。

「みんな、みんな!聞いて!この人たちがね、モンスターをぜーんぶやっつけてくれたの!!」

すると、少女は街全体に呼び掛けるように、大きな声で叫んだ。すると、清純と赤也のまわりには少しずつ人が集まり、結果、たくさんの街の住人たちに取り囲まれる状態となった。

街の住人たちは、とても晴れやかな顔で二人をみているが、赤也と清純はまだ状況をよく把握できていなく、二人は困った表情を浮かべる。すると、年のとったおじいさんが、清純の肩をぽんっ、と叩いた。


「詳しい説明は宴会をしながらしましょう。さぁ、少し狭いですが、うちに上がってください」


とりあえず、清純と赤也は素直に頷く。二人ともお腹が減っており、しかも宴会だと聞いて、清純はお酒を飲めないかな、などと期待していた。






It's warm house.






赤也は運ばれてきた料理をみて、目を輝かせるが、すぐにその表情を曇らせた。清純は期待通りにお酒が目の前に出され、「ラッキー!」などと言いながら、料理に手をつけはじめる。

清純が隣でモグモグと食べていると、赤也はそんな清純を一瞥して、はぁ、とため息をついた。


「あんた、悪魔の食いもん知ってる?」

「?んー、ひらない」


赤也はまたため息をつく。すると、清純は赤也が料理に手を出していないことに気付き、赤也の顔を見つめた。赤也は「何」と清純に視線を返す。

「…具合でも悪いの?」

「さっきの会話の流れで察せ」

赤也は清純に軽いチョップを食らわす。清純は文句がありげな目で赤也を睨み付けるが、当の赤也は外の景色に目をやって、それを無視した。先程戦ったはずなのに、まるで幼なじみのように仲が良くなっていた。
拳と拳で分かり合う、というのはこういうことを言うのか、そうでないのか。とりあえず、出会ったばかりのあの刺々しさはどちらにも無いようだ。

「食っても、腹、膨れねぇんだよ」

「でも勿体ないから食べなよ」

「…………」

本来、悪魔は人間を食って生きていく生きもの。しかし、最近の悪魔は人間が食べるものでも、腹の足しにはなるらしい。しかし、やはり人間が一番美味しいから、と赤也は今まで人間食を食べたことがなかった。だから、いくら美味しそうな匂いがしようとも、なかなか手がつけられないのだ。


「食べないと食べるよー」

「……」

「食べちゃうぞー」

「……、」

「いただきま」


ガッ、と肉の刺さったフォークを持った清純の手が赤也の手によって捕まえられる。すると、赤也は清純のフォークを口に近付け、肉を食べた。もぐもぐと噛んで、ゴクン、と喉をならしながらそれを飲み込むと、赤也は目をぱちくりさせた。

「うまい…」

「今のって食べさせたうちに入る?」

赤也はまた清純の頭を軽い力でチョップした。



清純が痛そうに頭を擦っていると、二人の向かいの席に、先程のおじいさんと、もう一人、元気がありいまっていそうな、ポニーテールのおばあさんが座った。おじいさんは細めの目をさらに細くして笑う。すると、おばあさんが口を開いた。


「あんたたちが倒してくれたモンスターはね、よくうちの街を荒らしていたやつらなんだよ」

清純と赤也は頷く。おばあさんは一枚写真を二人の目の前に差し出すと、先程の三つ編みの少女が、紅茶をおばあさんとおじいさんの目の前に置いていった。おばあさんは、「あの子はあたしの孫でねぇ。引っ込み思案なんだが、すごくいい子なんだよ」と言いながら、紅茶を口に運んだ。


「そこに写ってるのは、ここの街にいた南次郎という男さ。すごく強くて、いつも街に襲ってくるモンスターや悪魔を退治してくれてた。けど、妻と子供が出来ると街を離れていってしまった。だから、あんたたちがモンスターを倒してくれて、ありがたく思っている」

清純と赤也は片手ずつ写真をもって、写真を見た。そこにはちょび髭生やしたおっさんと、キャップを被った小さな少年が写っている。きっと、ちょび髭が南次郎で、小さな少年はその息子であろう。清純は顔が整っている息子さんだな、と思ったが、赤也は少年を見て、どこかで見たことがある、と思った。

「今夜は泊まっていきなさい。ベッドも用意してある」

おじいさんはそういうと、またニッコリと笑った。おばあさんも笑っている。赤也は再度窓の外を見る。すると、外では小さな子供たちが縄跳びをして楽しそうに遊んでいた。暖かい、赤也はそう思った。


「……」

「ぷはーっ、もう一杯もらえませんか?」


静かに外を眺めている赤也を無視しながら、清純はコップを空にするとお酒をまた頼む。赤也はそれに気付いて清純のコップを見る。清純のコップにはビールが注がれ、泡が溢れそうになると、清純は一気にビールを口に運んだ。

「―っはぁ、…至福の一時」

「ナニソレ?」

「え?あぁ、お酒。しかも弱い奴」

清純は酒は飲んでも絶対に飲まれないタイプで、ビールはジュースのようなもんだと、清純は赤也に語る。それを本気にした赤也は「俺もびーる!」と三つ編みの少女に頼んだ。


「止めといた方がいいんじゃないの?なんたってコドモなんだし、お酒弱そう」

「酒なんて、いくらでも飲んでやるよ。なんなら勝負する?おじさん」


清純はバンッ、と机を叩いて立ち上がる。おじさんと言われたことに腹が立ったみたいだ。続いて赤也もガタッ、と椅子を倒しながら立ち上がる。すると、コドモじゃないと証明するかのように、赤也は一気にコップのビールを飲み干した。そして、コップを机に勢い良く置く。

バトルの次は飲み合い合戦かと、ここに誰か全てを知っている人がいたら、そう突っ込みをいれて、呆れたようにため息をついていたであろう。


清純はニヤリと笑うと、ビールをもう一杯頼もうと口を開いた。しかしそれは出来なかった。なぜなら、清純の目の前のコドモ扱いが嫌いなコドモが、清純のほうに倒れてきたからである。清純はとっさに彼を受けとめる。
彼はスースーと優しい寝息をたてながら、もう夢のなかに旅立ってしまったらしく、清純は仕方がないコドモだ、とため息をついて、そっと頭を撫でてやった。


おじいさんとおばあさんはその光景をみて、まるで兄弟のようだ、と言いながら笑うと、部屋の場所を清純に教えてくれた。

清純は赤也を背中に抱えると、教えてもらった部屋まで連れていった。






赤也は目を覚ますと、大きく伸びをして、辺りを見回す。カーテンで日を遮っているからか真っ暗だったが、ここがベッドの上であることは分かった。赤也はカーテンを開ける。光が眩しくて目を瞑るが、すぐに目を開いた。

自分がいた世界は、日の光なんてなく、一日中闇だった。その代わり、この人間の暮らす世界は闇が一切なく、暗くなるなんてことはない。それを昔すごく不思議に思っていたな、と赤也は自嘲気味に笑って、窓を開けた。
冷たい朝の風が赤也の頬を撫でる。赤也は深呼吸をすると、いつの間にか脱がされていた黒いマントを纏った。


「待ちな」


ふと、聞いたことの無い声を掛けられる。赤也は警戒気味に後ろを振り向くと、そこにいた声の主の男を睨み付けた。男はやれやれと首を振ると、赤也が寝ていたベッドの反対の不自然にふくらんでいるベッドに近寄る。

「おい、目ぇ覚ませオレンジ野郎」

男はそう言いながらベッドの膨らみを揺らす。そして容赦無く掛け布団を剥ぐと、姿を現したのは寒そうに丸まっていた清純だった。男は清純の頬を叩く。


「起きろー」

ぺちん。

「目を開けろー」

ぱちん。

「目を覚ませー」

ばちんっ。


赤也は良い音がした、と顔を歪ませる。すると、嫌そうに「ん゙ん゙ー」と清純は唸り、ガバアッと起き上がった。癖のあるふわふわのオレンジが、さらにくるくるいっていて、赤也は仲間だ。なんて思った。

「何すんのよ赤也く…―夢か」

清純は文句を言おうとした瞬間男が目に入ったのか、夢と勘違いし、また眠りにつこうとベッドに倒れこむ。しかし、男は「夢じゃねぇよ!」と言いながら清純を無理矢理起こすと、清純の着ていた黒いライダージャケットを清純に投げ付けた。

「何なんだよ君!いきなり来てさぁ、誰!?」

清純は寝起きの機嫌の悪さでものを言うと、頭に怒りマークを浮かべながらジャケットをはおる。すると、男は半開きのカーテンを全開にし、顔をはっきりとさせた。男の目の下には、泣きぼくろがあった。


「俺様は跡部景吾だ。とりあえず、黙って俺様に着いてこい」


跡部はそれだけ言うと、ドアから出ていってしまった。いきなり現われといて黙って着いてこいなんて、普通だったら誰でもスルーするところが、清純と赤也は何となく着いていかなきゃいけない気がして、顔を見合わせると、二人は跡部の後を追った。



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