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Episode.01



「あー、暇だなー」

荒野の中ポンコツ車に乗りながら、清純はハンドルに寄り掛かった。運転中だというのによそ見をしていて、ここが道路の真ん中であったら、きっと警察<ポリスメン>に捕まっていたであろう。


「さっきの奴ら、奨金首でもなかったし。弱いし、きもいし。狩った意味ないCー」


以前、なにかの仕事で聞いたことのある口癖を真似しながら、清純は文句を誰に言うわけでもなしに、語り掛ける口調で言った。

「あー、ひま……!」

ふと、目の前に黒い物体が現われ、清純は驚き目を見開く。自前の動体視力でそれを捉えると、人であることがわかり、直ぐ様ハンドルを横に切った。






A help is needless !






がしゃんっ、と嫌な音がした。せっかく自腹で買った中古車なのに、と残念がりながら火が燃え上がるなか、清純はのそのそと車のハンドル席から出てきた。

清純はキョロキョロと辺りを見回して、先程の黒い服を着た少年を探す。安全を確認するのもあるが、急に車の前に出てきたことを叱ってやろう、というのもあった。
清純は少年を見つけると、少年の傍に駆け寄った。

「大丈夫?」

清純は、痛そうに頭をさすりながら地面に座り込む、癖っ毛の黒髪の少年に手を差し伸べる。さすがに飛び出してきたとはいえ、当てたのは自分がよそ見していたのもあるので、清純は少し罪悪感を感じる。
少年は清純に気付き、顔をあげると、キッと清純を睨み付け、差し出された手を払い除けた。清純はムッとする。

「あんた、人間だな」

「なんだよいきなり。手、貸してやろうと思ったのに、礼儀がなってないんじゃないの、ぼーず」


少年はスクッ、と立ち上がると、「俺は18だ!」と怒鳴り、長く伸びた爪を露にした。清純は長すぎる爪のことよりも、以外と背が高く(1、2センチ低い…いや悪くすれば清純より高い)、自分と一つしか違わないことに驚き、少年の顔をまじまじと見る。
顔は15ぐらいにしか見えないのに、立ち上がればあっという間に同い年ぐらい、か。


「な、何あんた。これが怖くないの?」


少年は気の抜けた顔をした清純に少し動揺しながら、自分の爪を清純の首につきつける。しかし、それでも清純は顔色一つ変えずに、「それがどうしたの?」という顔をした。
少年は唇を噛み締める。

「恐怖も知らないんだ。なら、知る前に死にな!」

少年は爪で清純の首をかっ切ろうと力を入れた。しかし、それは真っ白な銃により阻止される。少年はハッ、となって清純から離れた。


「お。頭は悪くないみたいだね」

「そんな白いもんを引き出そうとしてんだもん。撃たれたらアウトだしな」

清純は爪を防いだ銃を少年に向けて構え直す。そして、腰から抜こうとしたもう一つの白<ライトガン>を抜かずにそのままにし、清純は携帯を取り出した。待ち受けは、酒場で出会ったやけにテンションの高い同い年の男と一緒に写っている写真で、語尾に「〜C」を付けていたのはこの子だった、と清純は思い出す。

清純はブクマを開いて、「奨金首リスト」というサイトに接続すると、ニッ、と楽しげに笑った。


「よかった、奨金首だ」

「だから何よ」

「いやー、久々にお金が貰えると思ってね」


清純は気楽にそう言いながら、携帯を閉じてポケットに入れ直すと、向けていた銃の引き金を引いた。少年はしゃがんでそれを避け、爪をまた構える。清純は「やる〜」などとニッコリ笑いながら銃口から出る煙を吹いているが、反対に少年は苦虫を潰したような顔をした。

「あれ?どしたの、そんな顔して」

「いやぁ…今から殺されるあんたを可哀想だと思ったからさ!」


少年は地面を蹴って清純に襲い掛かる。清純はそれを紙一重で避けると、少年に銃を向けて、三発撃つ。少年は一発は避け、二発は爪で弾くと、一端間合いをとり、そしてまたすぐに清純に飛び掛かった。

「うわっちっ…!」

清純は銃を持ちながらも少年の両手首を掴んでなんとか持ちこたえるが、長い少年の爪の先が頬を軽く撫で、くすぐったそうに身をよじる。その隙に少年は腕に力を入れ、清純の手を外すと、清純向かって手を突き出す。清純は一瞬反応に遅れ、避けたには避けたが、頬に一筋の傷がついた。そこから血が流れる。清純は、その血をぐいっ、と手のひらで拭った。

「…痛いじゃないの」

清純の目付きが急にきついものになり、その気迫に、少年は一歩後退する。清純はその隙を見逃さず、まだ腰に掛けたままの銃を抜いて、少年に向けて発砲した。

「しまッ…!」


少年は体を横にして避けようとしたが、わずかに肩をかすめ、その部分を押さえて、少年は膝をついた。清純はザッザッ、と足音をたてながら少年に近づく。少年はそれに気付き、立ち上がろうとするが、傷が痛むのか立ち上がれずにまた膝をついた。


「悪魔はあいかわらず聖水と十字架が苦手みたいだね」

「…っ、おかげさまで」


清純の持つ白<ライトガン>は、悪魔を狩るために作られた銃である。小さく軽く、女、子供でも使えるようになっており、さらに、悪魔の苦手な聖水や十字架などに宿る、<光>の力が込められた弾丸を使用するので、普通の人間が擦っても擦り傷で終わるが、悪魔はそうもいかず、見た目の傷よりも倍のダメージを食らうのだ。

この武器は、一般にも護身用として販売しているが、清純はBLACK HUNTERという職に着いているため、この銃が無ければお話にならない。
BLACK HUNTERとは、光の世界で人間を喰らう悪魔や死神を狩る職業のこと。聖職者に部類されるが、清純は一匹狼<クレイジードッグ>といわれる、奨金首の悪魔を狩り、お金を稼ぐためだけにやっている者である。


清純は膝をついてしゃがみこむ少年に銃を構えると、ニッコリと満面の笑みを浮かべる。少年は絶体絶命という状況にもかかわらず、不謹慎にも、天使のほほ笑みというのはこういうことをいうのか、と思った。

「Good-bye…」

清純はそう言うと、引き金を引こうと人差し指に力を入れた。少年は我にかえると、弾丸が放たれようとしていることよりも先に、モンスターが清純の背後にいることに気付き、咄嗟に「後ろ!」と叫んだ。
清純は何事かと振り向くと、モンスターが目の前まできて、口を大きく広げていることに気付き、清純は得意の早業で白<ライトガン>から黒<ケンジュウ>に両方とも持ちかえ、モンスターに向かって何発か打った。


「ギャゥゥウウウ!!!」


モンスターは悲鳴を上げながら、地に倒れた。これで終わりかと清純が安堵のため息をつくと、スウッ、と清純の首に冷たいものがあたる。清純は横目で後ろを向くと、にやりと口元を歪めた少年が口を開いた。

「バイバイ…」

少年は清純の耳元で囁くと、爪に力を入れた。しかし、それは成功せず、少年の目の前には白<ライトガン>があり、少年は恐怖で目をギュッと瞑った。



バンッ、と音が近くで聞こえる。しかし、痛みは少しもなく、そっと目を開くと、銃は少年より後ろにいるものを撃ったことを少年は理解した。清純は少年の腕から抜け出すと、また黒<ケンジュウ>に持ちかえた。


「君を殺したかったとこだけど、」


少年は振り向くと、清純が先程撃ったと思われるモンスターが、脳天に風穴を開けてぐてん、と倒れているのを見つける。そのまた後ろの岩影には、同じ種類のモンスターが数匹隠れていた。少年は不本意そうに眉をひそめながらも、清純に向き合った。


「でも今はそれどころじゃないみたい。君がみた岩影いがいにも、まだまだ仲間はいるみたいだからね」

清純は黒<ケンジュウ>の弾を入れ替えると、少年に背を向ける。少年は清純と背中合わせになるように向きをかえると、爪に少し付いていた清純の血を舐め取りながら、口端を釣り上げた。清純も悪戯をしようと企んでいる子供のように、嬉しそうに笑っていた。


「怪我してるなら、無理しないほうがいいんじゃないの?助けなんていらないし」

「情けもいらねーし助けるつもりもねーよ」

「早死にするタイプだね」

「意味ないと思うけど、俺赤也。切原赤也」

「俺は千石清純。清純でいいよ」


お互いに名前を名乗り合うと、目の前の敵に向かって、二人とも駆け出した。

赤也は長い爪で一気にモンスターを裂いていく。清純は銃を連射し、モンスターに穴を開けていく。しかし、数が数なので、時折モンスターの攻撃も食らい、赤也は先程清純にやられた傷もあって、少しよろめいた。その隙に、モンスターはまた攻撃を仕掛けようと飛び付いてくる。

赤也は避けようと、地を蹴って横跳びをする。しかし、着地が上手くいかず、倒れてしまった。モンスターも避けられて体勢を崩すが、すぐに立ち上がり、赤也を見つけると、また飛び付いてきた。

「うわっ、」

赤也が悲鳴を上げようとした瞬間、ドンッドンッ、という銃声がそれを妨げ、赤也に飛び付こうとしてきたモンスターは弾丸に打ち抜かれ、倒れた。赤也が振り向くと、銃口からあがる煙を吹く清純が、返り血をあびた姿で立っていた。赤也はこの時、煙を吹くのが好きなのか?、と思った。


「大丈夫?」

「…、ありがとう」


清純が手を差し伸べると、赤也は今度は素直に手を取る。そして引っ張り上げてもらうと、赤也は辺りを見回した。すると、そこら中モンスターの死骸だらけで、気持ち悪りぃ、と赤也は思った。

「さぁて、どうしよっか…」

清純が呟く。赤也はどうしようも何も無いだろうが、と思ったが、今戦ったら普通に考えて負けるのは当たり前なので、口には出さない。清純がうーん、と唸っていると、「あの…」と気弱な声が掛けられた。


「どうしたの?お嬢ちゃん」

「このモンスター、貴方たちが倒してくれたんですか?」


清純と赤也は頷く。すると、髪を二つに分けて、三つ編みにした少女は晴れた顔つきになり、「ありがとうございます!」といきなりお礼を二人に言った。二人は戸惑い、顔を見合わせる。すると、少女は二人の手を引っ張った。

「是非お礼がしたいんです!来て下さい!」


少女はそれだけ言うと、清純と赤也の手を引いて駆け出した。されるがままに引っ張られる二人はまた顔を見合わせ、そして、笑い合った。



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