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もしも願い一つだけ叶うなら。(切千)



もしも願い一つだけ叶うなら。
君の傍で眠らせて。

十分嫌われている。それぐらいなんとなく自分でも感じている。でも、何が悪くて何が彼の癇に触っているのかは分からない。きっとそんなとこも、彼は嫌いなんだろうけど。


日が沈みかけ、夕日が海の向こうで半分になり、空にはまだらな雲が泳いでおり、俺はそんなもやがかった薄いオレンジの空を見上げながら、明日は天気だろうか等と考えていた。
隣には、先程まで不機嫌極まりなかった俺の好きな人が、あまり長いとは言えない睫毛を伏せながら静かに眠っている。俺は愛しの彼のやわらかい癖っ毛の髪を撫でる。起きていたら近づくことすら許してくれないから、なんて思うと、少し切なかった。

俺は辺りを見回す。古ぼけた住宅街が海辺添いに立ち並び、哀愁漂う夕日がこの街の寂しさをより引き立たせている。鼻につく潮の香りがしょっぱい。海に映る彼と俺の姿が波に揺れ、まるで海の世界で俺たちが消えたようだった。
また波が小さく弾む。かき消された俺たちにさらに追い打ちをかけるように。ふと思った。海のなかで俺たちは消えたんなら、海から俺たちは見えないなって。
すごく、馬鹿なこと。


「……」


なら誰も見てないから、証拠はないよね。なんて、俺は彼にそっとキスを送った。やわらかい感触が唇から伝わる。少しがさついている、手入れしてないんだな、と目を細めて笑ってみる。
俺はもう一度彼の頭を撫でた。俺の気持ちも知らないで俺を嫌う君が愛しくて憎らしくて、大好きって気持ちが溢れるくらい愛している。すると彼は頭のうえの俺の手をとる。胸がドキッと鳴り、早鐘のように鼓動を打ちはじめる。彼は俺の手を自分の胸に置くと、握ったまま動かなくなった。
どうやら、寝呆けていたようだ。


「…びっくりした、もう」


ほっ、とした反面少し残念なとこもあって、笑顔になりきれなかった。起きたとき、自分が俺の手を握っていたなんて知ったらどんな顔をするのか、少し気になった。俺はぎゅう、と俺の手を逃がさないとばかりに握り締める彼の手を握り返す。
嬉しいけど―切ない。

俺は彼の隣に寝転ぶ。間近になった彼の顔が夕日に当たっていて、どこか暗い雰囲気を漂わせていた。なんだか泣きそうな顔にも見える。
俺はそんな彼の方を見つめながらそっと目を閉じた。波の音が小さく小さく聞こえる。夕日が眩しくなくなってきた。自分の心臓が少し早く鼓動を打っているのが分かる。手が、あったかい。


もしも願い一つだけ叶うなら。
せめて、君の傍で眠らせて。


目が覚めたら、君が手を握りながら起きるのを待っていたら、いいな。




切←千(´ω`)
エヴァ序のOP「Beautiful World」を参考に。
切ない→ハッピーエンド
が大好きです(だから何だ)最後はハッピーエンドがいいよぉ、でも後味悪いのも大好き←




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