置いていかないで!(切千) 手を伸ばしてみるけれど、手は空を掻くだけで、あの人のもとには届かない。むしろ、だんだん離れている気がしてならなかった。 「千石さん!」 名前を呼んでみるが、あの人は振り返ずに、離れていく。追い掛けようとするが、何かに足を取られていて、前に進めない。 「千石さん!嫌だ、置いていかないで!」 千石さんはその言葉に足を止めると、振り返って、にっこりと俺に笑いかけた。 そして、千石さんは闇の中へと消えていった。 「うわっ」 目が覚めると、見慣れた自分の部屋の天井が目に入った。起き上がって時計を確認すれば、朝の五時。朝練はあるが、少し早すぎる時間帯だ。 「千石さん…」 俺は自分の手のひらを眺めると、ギュッ、と拳に変え、カーテンを開けて、そとを見た。 「必ず、届かせてやる」 ←→ |