(ウル織)
開け放たれた窓にこそりとも揺れる様子なく垂れ下がる薄いカーテンを、織姫は力なく床に転がったまま恨めしげに見やった。

じわじわ みんみん

夏の風物詩がここぞとばかり威勢良く生の賛歌を上げているのも、耳を侵して思考を鈍らせていく。
「……あ……っい……」
ころ、と横に頭を倒せば温まったフローリングに頬が当たり、更に気怠るさが募った。
視界の隅、もうずっと前に空になっていたグラス。その表面に浮いた水滴が伝い落ち、床に小さな水たまりが出来ていた。

(――拭かない と、)


熱気で重くなった空気は質量を伴い脳と躯にまで纏わりつき、起き上がろうとする意志をゆるゆると溶かしていく。
視線は次々と流れ落ちる滴を追うままに、鈍くなった頭に拭くための道具の在処を茫と描いた。


(―――雑巾は 洗面所 で

……ティッシュは、)



「今日は一日そうしているつもりか」

硬質な声が緩い思考を遮ると共に、視界からグラスが消えた。
黒い爪の白い指先が、これまた白いティッシュを摘んで床を一拭い。零れた水の痕跡はもう無い。
あるのは白いティッシュを掴んだ白い手だ。


その主は、見なくても判る。



「…うる……きおら…さん」





あきゅろす。
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