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最果て
12


「ん…―――っ」


これなに?

なんなの?

…なに、してんの?



力が抜けてしまった口の中を、ぬるりとしたものが這い回る。



「っふ……ゔうっ…ん」


熱いそれが俺の舌を絡めとって、好き放題に暴れる。したこともないような激しい行為。

俺は逃げるようにしてかぶりを振ったけど、いともたやすく両手首を拘束されて、ベッドに縫い止められた。


――怖い。



やがて唇が離れていく。
その先にある綺麗な顔は、間違いなく、兄のものだった。



「はぁっ…はっ…さ、さすけ…」


――なんで、こんなこと。
荒い息継ぎをしながら、呆然とサスケをみつめる。



「……」


月のひかりを浴びるその表情は、見えなかった。


わけがわからなくて、閉じきった涙腺から、またじんわりと涙が溢れてくる。

手を押しあてて我慢していると、ふいに身体を起こされて、向かいあわせに座らされる。

使い込んだベッドがきぃ、と鳴った。





サスケは、俺の肩を抱き寄せるように掴んで――





「俺は、お前が好きだ」





ひどく真摯な顔で、云った。




「へっ……」


…俺は嫌われてるんじゃなかったの?
…好き?
途端、ぐわあっといろんな感情が波のように押し寄せてきて。


「おっ、俺もサスケのこと好きだってば…!」


肩をとらえる腕を握りしめて、俺は表情を伺うように身体を乗り上げた。


でも、サスケは――


「…違う」


キッパリと、いい放つ。


「…ち、がう?」

「お前は俺のことをどんなふうに"好き"?」


柔らかく言われて、俺は必死に考えた。



サスケのことは好きだ。大好き。

だけど、どんなふうかと聞かれれば、頭の中の乏しい辞書では、ふさわしい回答なんてみつからなくて。



「…わかんねぇ。ただ、好きってことしか…」



サスケは、またゆっくりと俯いた。長い前髪がさらりとこぼれて、空気を撫でていく。
何も言わない。じっと、何かを噛み殺しているようにも思えた。


そして苦しげに紡がれる、言葉。





「……俺は、お前が欲しい。抱いて、すべてを俺のものにしたい」


「―――え…」



いくら疎い俺でもわかる、それは、"恋"の感情。

目のくらむ思いがした。パニックになる頭。


サスケは、俺が、"好き"?

どうして?

なんで俺なんか?

俺は男だし、

家族だし、……弟なんだよ?




だけど、サスケはやっぱり真剣な眼差しのままで、ふわりと俺の頬っぺたを引き寄せた。

あたたかい手のひらに、泣きそうになる。




「もう、戻れない。兄弟にも家族にも」

「さす…っ」

「だから、選べ」


呼ぼうとした名前を、強い口調で妨げられる。



「俺のものになるのか、ならないのか」



サスケは言った。
自分のものになれば、あの頃のように、幸せな日々に戻れる。
夢にまで見た、あの日々に。

ただし、それは。
恋人という名の束縛を受けるという条件。兄弟なんて健全な仲ではなく――



「……な、らなかった、ら…?」


夜に吸い込まれそうな黒に必死ですがり付きながら、俺は問う。



「俺たちはもう、他人だ」

「他人…?」



――背中に冷水を垂らされたかのごとく、そこからひんやり血の気が引いていくようだった。


もう、サスケと話すことも出来ない。触れあうことも、笑いあうことも。

俺たちの関係は"無"に戻る。




「―――っ」



それは計り知れない絶望。




「……どうする?」



試すように、指が唇を撫でていく。



ひどい、と思った。
ずるい、とも。


そんなの。

あまりにも勝手すぎる。





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