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07 約束






木造の電車はすすだらけで黒い。
造られてからかれこれ数十年は経つらしい。ぎしぎしと軋む音が静かな車内に響いている。

窓からみえる緑は視界から断続的に消えてはまた新しい緑を構築する。
 

電車に揺られながら、そんな光景をただぼんやりとみていた。




黙っていなくなってしまったこと…佐助は何て思うだろうか。


怒る?心配?寂しい?


俺なんかがいなくなっても、何とも思わないかもしれない。
……うん、きっとそうだろう。



空白の八年間の時に戻るのは怖くないんだ。だってそれは、本来の自分に還ること。だから何とも思わない。
 


でも彼の声を、姿を、温もりを感じられなくなることが、怖かった。寂しかった。苦しかった。

二度と会えないのかな、なんて考えてしまうと目頭がじんわり熱くなってきてどうしようもなくて。




――今頃、彼はあの場所で待っているだろうか。
きっといつものように、木に凭れて、この広く青い空を見上げているんだろうね――






『あの雲、佐助に似てるー』
『あ?どれだよ』
『あれ』
『……じゃあ鳴門はあっちの丸いやつだな』
『んなっ、丸いってなんだってばよ』


薄く形のよい唇の端だけ吊り上げて笑う。そしてちょっぴり、左目を細める。

それが彼の、癖。
 




『お前の瞳は青色をしているんだな』
『んー?』
『…空の、色みてぇ。深くて大きな蒼…綺麗だな』


そういって彼は、何も前触れもなく、俺の頬に触れる。
真っ赤に染まる俺をからかうのが好きらしい。
 
『りんご鳴門』
『う、うるさいってば』






『あーあ…もう桜、散っちゃったんだ』
『そうだな』
『来年もさ、…この場所でまた、みれるかな』


一緒に、またみれるのかな。健気に、ふわふわと踊る桜を。優しく色付くこの季節を。


『…ふん』
『った!何だよ、何で、でこぴん…』
『みれるに決まってんだろ。この桜が咲き続ける限り……来年も再来年も、ずっと』


ずっと。そう言って佐助は空を仰いだ。口元には、あの微笑み。

意地悪そうに笑うけど、どこまでもどこまでも優しく綺麗なものだったんだ。

 

 
『……うん』

  



それは、たわいもない”約束”。



(……ねぇ、佐助。ごめんね。桜、もう一緒に見られないんだ。)
 



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あきゅろす。
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