04
「お、あれ何?」
「あそこは……」
だけど、悪い気分じゃ、なかった。
ここは何だ、と聞かれておずおずと答えれば、彼は、寡黙だが頷きながらも聞いてくれる。
俺を、こんな形でも必要としてくれているんだと――
幼い俺は、馬鹿な俺は、
――ただ、嬉しかったんだ。
「そういえば、お前いくつ?」
「俺は、えと、今年で八歳になるってば……佐助は?」
彼は自分と同い年だと言った。
そうと知ってますます驚いた。こんなにも利口そうな人が同い年だとは思えない。
そこらへんで、鼻水を垂らしながら走り回っている丸坊主の子供と比較してみて、どうだろう。誰が納得できようか。
でも、笑うと、年相応に幼くみえてしまうもので――
第一印象との相違が、なんだかおかしかった。
「今日はどこに行く?」
「あそこ」
「……えっと、山岡写真館?」
「さっさと行くぞ」
「え、写真館なんか行って何するってばー?」
互いに約束したわけでもないのに、出会ったあの場所、街の展望台で毎日といっていいほど会うようになった。
今までに感じたことのない、ぽかぽかとした気持ちが、胸の奥を優しく包んでいくのを佐助と出会う度に、感じていた。
”楽しい”
”嬉しい”
それは自分にとって禁悦な、そんな感情がおのずと芽生えてくる。
無心でいようと独りでに誓ったあの時が、今はぼんやりと霞んで見えた。
佐助は同年代の子供と比べると随分と大人びている。あまり表情に出さないからほとんど無表情に近い。
だけど、いつも口元には穏やかな笑みを浮かべているのだ。
横にすっと伸びた目元も、同様にふわりと笑んでいる。
これらは本当に何気ない瞬間に発見したことで。
初めはそれこそ、その端整さと傍若無人な態度のせいもあって、恐怖を抱いていたほどだったのに――
不思議だ、摩訶不思議。
彼のそんな事情を知ってしまった。それがどうしようもなく、嬉しかった。
いつも強引に俺の腕を掴む手の温度は冷たくてひんやりとしていることとか、
うすらとんかち、と口癖のように言うけれど、その音色はどこまでも安らかなこと、
進む歩幅はいつも何気なく、俺に合わせてくれていること。
彼を知るたびに、もっともっと知りたくなる。
他人に興味など持ったことなど一度足りともないし、きっと、これからも持ちえないだろう。そう、思っていたはずなのに。
「……鳴門」
彼が微笑むたびに、鼓動がとくん、と高鳴るのは、どうしてなんだろう。
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