10 経過
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痛くて、眠い。
「おい起きろよ。まだ終わってないぞ」
まだ殴るのか、いい加減、身体が痛いんだ。
「――なぁ”elesia”。お前は何処までも異端だよ」
でも、心は痛くない。
――この屋敷に来てから気づけば数ヶ月が過ぎていた。
密かに暴力が行われていることは、多忙な伯父さんは知らない。帰ってくるのは夜の九時を回った頃で、いつも朝早くぴしりと背広を着込んで出掛ける。
食事を家族と共にすることも滅多にない。家族といっても、息子(名前などいちいち覚えていない)しかいないんだけど。
伯父さんの妻、つまり伯母さんは見た事がなくて、きっと、何か理由があって存在していないのだ。そんなこと聞けるはずもないから何も詮索はしない。
殴り飽きて、部屋を後にする息子はいつも、すっきりとした面持ちをしているけど、
それを見て怒りに震えることもない。ただ、可哀想な人なのだと思うだけだ。
そりゃ、身体は痛い。
殴られた箇所は赤く腫れあがっているか、青く鬱血している。衝撃が脳内に響くからいちいち頭がぼうっとする。
”えれしあ”どういう意味なのだろうと問うまでもなく彼は言った。
"異端"
だけど、そんな罵りを聞いても心は痛くないんだ。ぎゅっと目を閉じて耐えていると、不思議と痛みは消えていく。
(でもちょっと昨日の傷は、)
――酷いみたいだ。腕の内側、切れた所が化膿している。
「……十時か、」
この時間帯――午前八時から午後六時には誰もいないことを確認すると、それでもこっそりと階段を駆け下りた。
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