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01
カーテン越しに窓から差し込む光。時計の針は7時を回っていた。


「おっはよーう!今日もいい天気だぞ、カフ」


俺は機能しない脳を強制的に起こし、目覚まし時計を苛立たしげに叩く。


「くそっ」


聞きたくもない父親の声で毎日の朝を起きるなんて絶望的だ。


俺はベッドから体を起こし、カーテンに手をかける。朝の光が部屋に入り込み目を細めた。ちらっと横目で目覚まし時計を見ると、何事も無かったかのように時を刻み続けていた。何が目的でこんなものを送ってきたと睨みつけてやるがあほらしいので止めた。毎朝7時に勝手に鳴る目覚まし時計。しかも父親のいらんメッセージ付きともなると、余計に腹立たしい。


何度捨てようかと試みたが、朝になると必ずこのベッド横に戻ってくる。一体どういう仕組みなのか俺の頭を持っても分からない。俺は小さい頃から母親とも父親とも別々に住んでいる。俺に父親の記憶は存在しないが、有名な科学者だか研究者だかだと聞かされている。別生活を送る事になったのも、その研究が大切なんだと。こんなしょうもない物を造る暇があるなら、もっとましなものを造って送ってほしいものだ。


「カフカー起きてるかー」


起きたての頭に入ってきた声。俺が二番目に嫌いな声。窓の下、向かえの道路から聞こえる声に目を向ける。手がもげそうなほど大きく手を振っているヤツがいた。名前はなんだっけ、転校した当日からやたらと俺に付きまとってくるヤツ。

 
窓の鍵に手をかざす、認証システムが発動し俺の細胞組織式を計算する。登録済みの俺の聖心(ソウル)と合致した事を確認、カチッと小さな音がしてロックが解除される。その間わずか1秒の1億万分の1秒。クワルツォで最大の認証システムと異名も高い、ああ、これも俺の父親が造ったんだ。思いだしたら腹が立ってきた。
 

窓を幾分か勢いよく開け放つ。

 
「お前誰」 
「ひっでー、いい加減覚えろよ!俺は」
 

最後まで聞かずに窓を閉める。自動ロックが作動し、一瞬のうちに鍵がしまる。最近の防衛システムは実に進化したと思う。たいていの事は、聖心(ソウル)一つで行えてしまう。


聖心(ソウル)とは一生命体に一つしかない、その人の細胞組織を計算したものの一部である。感情や言動、さらにその人の身体構造までもが聖心(ソウル)に組み込まれているとされ、生まれながらに生き方が制限されているのだという。生まれた瞬間に自らの意思とは関係なく、人生の終わりが聖心(ソウル)に支配されると言ってもいいかもしれない。

 
俺はポットにお湯を注ぎ火にかける。欠伸が出た。朝から頭を使ったからかもしれない、きっと酸素が足りていないんだ。

 
手早く顔を洗い、制服に着替える。箪笥の中には今着ている物を含めて4着の制服が下げられていた。親の都合で高校を転々と転校してこれで4つめの学校。一緒に住んでいる訳でもない親の都合での転校。考えたらまた欠伸が出た。
 

律儀に制服を取ってあるのは、なんだ。別に未練があるわけではない、と思う。


箪笥の制服とにらめっこをしていたら、ポットのお湯が沸いたらしくピピピという音が聞こえた。俺はカップに固形食品を入れお湯を注いでいく。お世辞にも美味しそうな香りではないが、一気に胃袋の中へと押し込んでいく。俺は生まれつき重度の味覚障害らしい。そのせいもあってか俺は昔から食べ物に関しての執着がない。胃袋が満たされればいい、そう思い続けて17年間今もその考えは変わらない。
 

「うびゃーぁ?」

 
俺の足元にビビットがすり寄ってきた。

 
「お前も腹すいたのか?ほら、ちょっと待ってろ」
 

戸棚を開け市販のペットフードを取りだす。俺が皿にペットフードを開けている間も、ビビットは俺の脚の周りをくるくるとせわしなく動き回っていた。
 

「おとなしくしてないと、ご飯抜きだぞ?」
 「うびゃ、うびゃぁぁ」

 
ビビットが背中を震わせる。急におとなしくなったビビットを見て俺は笑いが止まらなかった。そんな俺を見てビビットがしゃーっと威嚇するが、それもまた可愛い。俺は手に持った皿をビビットの前にそっと置いてやる。ビビットが一心不乱に皿のペットフードにがっついている横で、俺は少し残っていた固形食糧を飲み込む。少しぬるくなっているそれはさっきよりも不快な味がするのだろうか。

 
家庭用ペットとしれ造られた生成ペットで最もポピュラーなのが、俺の飼っている首が短い麒麟、ビビットだ。対人関係が良好ではない俺に懐くなんて、こいつも相当ひねくれ者。類は友を呼ぶ、か。

 
ビビットの下あごを撫でようとすると、びぎゃーと威嚇された。食事中に触るなという事だろう。食事とは生き物にとってそこまでの価値があるのだろうか。ビビットに差し出した手を戻し、代わりに水の入った容器を隣に置いてやった。

 
俺は食器洗い機の中にカップを突っ込み手をかざす。食器洗い機が動いた事を確認し、机の上に投げ出され
ていた教科書を適当に鞄の中へと突っ込む。


時計を見ると短針が文字盤の丁度9を指そうとしていた。まだ余裕がある。俺は鞄を肩から掛け、胸ポケットに入ったカッターを確認する。それから靴に右足を入れる。続けて左足をいれ、腰を下ろすと両足の靴紐をしっかりと結びなおした。

 
靴の紐を毎日きっちりと結ぶ事は、自分の気持ちを引き締める意味がある。気持ちの入れ替えは毎日を正しく生活するために、俺が一番大切だと思っている事だ。
 

立ち上がりビビットの様子を伺う。奴はまだペットフードと格闘していた。

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あきゅろす。
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